SEIKO

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ムーブメント設計 澤田 明宏

外装設計 三島 義雄

GPSソーラーウオッチ
「セイコー アストロン」の軌跡 ―絶対精度の追求と絶え間ない進化―

2012年9月、世界初のGPSソーラーウオッチとして誕生した「セイコー アストロン」。革新的な技術で時計の新しいスタンダードを創り出し、時計史を塗り替える革命を起こした「クオーツ アストロン」の名を冠し、鮮烈なデビューを飾った「7Xシリーズ」は、これまで腕時計がおよそ装備しえなかったGPSソーラー機構を取り入れ、かつてない機能と感性をあわせ持つ腕時計を世に送り出し、世界を驚かせた。続く2014年、大幅な小型化を図りながら、デュアルタイムやクロノグラフ、ワールドタイムなど多彩な機能を搭載し、操作性をさらに向上させた「8Xシリーズ」が登場。多様なライフスタイルに寄り添うラインアップを展開し、国内外のユーザーから圧倒的な支持を得て、不動の地位を築き上げた。そして、「絶対精度の追求」と「絶え間ない進化」をブランドのルーツとするセイコー アストロンは、ついに次なる進化の時を迎えた。2018年11月、史上最高性能を誇る「5Xシリーズ」によって、「第二の革命」の新たなステージが今、始まろうとしている。

ムーブメント設計
澤田 明宏

1997年セイコーエプソン株式会社入社。ウエアラブル機器事業部WP開発設計部においてKINETIC Cal.7Dの超音波モーター開発・設計を皮切りに、KINETIC Cal.5Dなどの設計を担当。2014年よりソーラー電波時計、GPSソーラーウオッチの開発設計に携わる。2018年11月発売のGPSソーラーウオッチ アストロン「5Xシリーズ」に搭載した新キャリバー「5X53」の開発・設計を担う。

外装設計
三島 義雄

2004年セイコーエプソン株式会社入社。ウエアラブル機器事業部WP開発設計部において、外装開発に従事したのち、国内の主要ブランドの外装設計を担当。2011年より外装設計とともに新ムーブメントの立ち上げも担う。2018年11月発売のGPSソーラーウオッチ アストロン「5Xシリーズ」の外装設計を担当。

GPSソーラーウオッチ
「セイコー アストロン」
5Xシリーズ誕生の背景 ムーブメント設計 澤田 明宏
外装設計 三島 義雄
インタビュー

2018年11月、世界初のGPSソーラーウオッチとして誕生した「セイコーアストロン」から、新キャリバー「5X53」を搭載した「5Xシリーズ」が登場した。7Xシリーズ、8X シリーズで築き上げてきた独自の伝統をたどりながら、それらを凌ぐアストロン史上最高性能を誇る新たなシリーズ誕生の背景やその革新的な進化について、ムーブメント設計担当の澤田明宏と外装設計担当の三島義雄に話を聞いた。

2018年、GPSソーラーウオッチ 「セイコー アストロン」史上最高性能を誇る「5Xシリーズ」が誕生

2018年11月、世界初のGPSソーラーウオッチ 「セイコーアストロン」から、さらなる進化を遂げた新キャリバー「5X53」を搭載した「5Xシリーズ」が発表されました。その開発の経緯について教えてください。

澤田明宏(以下、澤田):2012年9月に世界初のGPSソーラーウオッチとして誕生したセイコー アストロンは、地球上のどこにいても衛星からの電波を受信して、現在位置のタイムゾーンを特定し、正確な現在時刻を素早く表示します。その商品性を世界にアピールする役割を果たした「7Xシリーズ」を経て、2014年には大幅な小型化とともに、操作性の向上を実現した「8Xシリーズ」を発売しました。異なる2つの時刻帯を表示するデュアルタイム機能をはじめ、ストップウオッチ機能を搭載したクロノグラフ、ワールドタイム機能、ビッグデイトカレンダー表示など、多彩なラインアップによりユーザーのライフスタイルに寄り添うことで、国内外を問わず高い支持を獲得し、確固たる地位を築き上げてきました。

セイコー アストロンというブランドの根底に流れるのは、「絶対精度の追求」とそれを実現するための「絶え間ない進化」です。1969年にセイコーが世界に先駆けて発売した「セイコー クオーツ アストロン」の名を冠し、クオーツ革命に継ぐ時計史の「第二の革命」を起こすべく誕生した7Xシリーズを第1世代、さらに進化を遂げた8Xシリーズを第2世代とするならば、その革命を次のステージに導くために、さらなる高みを目指すことは至極当然のことだったと言えます。

セイコー アストロンの第3世代として、新たなラインアップとなる5Xシリーズでは、これまで築いてきたアイデンティティのどこを継承し、どこを進化させていくかということについて、非常に多くの議論を重ねました。開発陣にとってかつてない難題でしたが、3つの開発目標を起点として開発にあたっていきました。

3つの開発目標とは何だったのですか?

澤田:まずひとつ目は、「より美しいデザインと、より心地良い装着感を備えた商品の実現」です。先述したように、8Xシリーズは7X シリーズに比べて大幅なダウンサイジングを実現しましたが、お客様や販売店様からは「もう少しサイズが小さければ…」というお声をいただくことがありました。そこで5Xシリーズでは、ケース外径約42~43mm、厚さ約12mmという男性用の多機能時計として最適なケースサイズへの小型・薄型化を目指すことと、そのサイズでのベストなデザインバランス、質感、性能を実現することを目標としました。つまり、サイズ感も含めたより美しいデザインの追求を目指したということになります。

ふたつ目は、「アストロンの名を継ぐにふさわしい、さらなる精度の追求」です。1969年に発売した世界初のクオーツウオッチ「セイコー クオーツ アストロン」の名を受け継ぐセイコー アストロンには、その精神と技術が脈々と受け継がれています。当時開発された音叉型水晶振動子、オープン型ステップモーター、1秒運針などの技術や仕様は、50年近く経った今でも変わっていません。「1秒を正確に刻む」ことへのこだわりは、7Xシリーズ、8Xシリーズに搭載した自動時刻修正機能「スマートセンサー」によって飛躍的な精度向上を実現していますが、5Xシリーズでは、このGPS衛星からの時刻情報を日々自動的に受信する機能をさらに進化させ、より高い精度を追求することを目標に掲げました。

三つ目は、「操作する楽しさ、歓びを感じられる操作性の実現」です。多機能時計は単に機能を搭載しているだけではなく、操作する楽しさと同様に分かりやすい操作仕様も大切であると、私たちは考えています。ゆえに5Xシリーズでは操作仕様を徹底的に分かりやすくすること、ボタンを押した時の感触を含める操作感の向上、操作した際のレスポンスの良さなど、細かいところまでこだわり吟味して作り込むことをもうひとつの目標としました。

その後、どのように開発を進めていったのですか?

澤田:今回に限らず、新商品を開発する際には、商品仕様を練っていく過程で、ムーブメント設計、外装設計、デザイン開発チーム、企画担当者などが密に連携しながら方向性を定めていきます。5Xシリーズでは、先に述べた開発目標を達成するために、構造をゼロから見直す必要があったため、これまで以上に協議の回数を重ね、一つひとつの方向性を決めていきました。幾度となく試作を繰り返しながら、さまざまな案を並行して検討し、互いにアイデアを持ち寄ってはまた話し合いを重ねるというプロセスを踏み進めた末、新ムーブメント5X53を搭載した5Xシリーズを世に送り出すことができました。このシリーズならではの5つの進化は次の通りです。

  • 新設計のモジュールと圧倒的な運針スピードによる「高速タイムゾーン修正」
  • ホーム/ローカルタイムの切り替えが瞬時に可能な「タイムトランスファー機能」
  • さらなるGPSモジュールの進化による、ケースサイズの小型化
  • 究極のストレスフリー「スーパースマートセンサー(自動時刻修正)」
  • 新開発の簡易アジャスト機構「スマートアジャスター」を備えたメタルブレスレット

“5つの進化”を遂げた5Xシリーズの魅力

5Xシリーズが実現した5つの進化について、具体的に教えてください。まず、「高速タイムゾーン修正」とはどのような機能なのですか?

澤田:5Xシリーズでは、受信性能に関わる主要なパーツを新たに開発するとともに、衛星を探し出す「衛星サーチ能力」のアルゴリズムを見直すことで、受信時間を短縮することができました。加えて、モーター構成を根本から見直し、時差修正時の運針速度を劇的に向上させています。時と分が連動していた8Xシリーズでは、東京→ニューヨーク(時差14時間)の時差修正に約34秒を要していたところ、時・分・秒をそれぞれ独立したモーターと輪列で構成する5Xシリーズでは、約3秒で完了することができます。

時と分のモーターを独立させることは、その分だけモーターと輪列のスペースが必要となるため、5Xシリーズの開発目標であるケースサイズの小型・薄型化には相反する選択です。しかし、もうひとつの目標である操作する楽しさ、快適な使い勝手を実現するうえで、時・分・秒の独立構成は不可欠でした。また、通常のモーターにはコイルが1個しか付いていないところ、6時位置の小時計用のモーターには2個のコイルを付けた高速モーターを搭載しており、小時計の手動時差修正の際もレスポンスよく快適な操作感を実現しています。

海外渡航時に簡単な操作でタイムゾーンを修正できることがセイコー アストロンの魅力の一つですが、この時、信号を捕捉している衛星の数をリアルタイムに表示することでGPS衛星との繋がりを感じられるエモーショナルな演出は、5Xシリーズでも健在です。なお、ケースサイズの小型・薄型化の課題については、後述する新規設計のムーブメントによってクリアすることができています。

ホーム/ローカルタイムの切り替えが瞬時に可能な「タイムトランスファー機能」について教えてください

澤田:「タイムトランスファー機能」は、2時位置と4時位置のボタンを1秒間、同時長押しすることによって、基本時計と小時計の時刻を瞬時に切り替えることを可能にしたセイコー アストロン シリーズでは初となる新機能です。これは、先述した時・分・秒の独立構成と小時計用に搭載した高速モーターによって、時差修正時の運針速度が劇的に向上したからこそ実現した機能で、見ていて爽快な気分になるくらいの素早いレスポンスで、ホームとローカルタイムの切り替え動作が完了します。海外の特定の地域に渡航する機会が多い方など、タイムゾーンを超えてコミュニケーションを行う方には非常に重宝する機能だと思います。

さらなるGPSモジュールの進化によりケースサイズの小型化を実現するまでの過程では、どのような技術開発が行われたのですか?

澤田:ケースサイズの小型化を実現するにはGPSモジュールのさらなる進化が不可欠でした。7Xシリーズ開発当初、ソーラー発電で駆動できるようなGPSモジュールは存在しておらず、自社のGPS開発技術を注力して従来比約1/5まで消費電力を削減することで7Xシリーズの商品化に漕ぎ着けたわけですが、その後も継続して低消費電力化に取り組み、8Xシリーズでは7Xシリーズの約1/2に、そして5Xシリーズではさらに8Xの1/2まで低消費電力化を進めてきました。 また、5Xシリーズでは低消費電力化だけでなく、衛星サーチ能力を8Xの1.5倍に高め、受信性能のブラッシュアップも同時に行っています。 このようなGPSモジュールの絶え間ない進化によって、従来のリングアンテナの構成だけでなく、箱型アンテナを極限まで小型化した上でムーブメントに内蔵するという構成を選択できるようになったわけです。

7X・8Xシリーズで採用してきたリングアンテナは、受信性能の点においてはもちろん優れた構成なのですが、その一方でどうしても縁が厚くなり、ケースサイズの大型化の一因となっていました。そこで5Xシリーズでは小型化とデザインバランスを第一に考え、あえて小型箱型アンテナをムーブメントに内蔵する構成を採用しました。

こうして、5Xシリーズではケース径42.9mm、厚さ12.2mmの世界最小最薄(※)のケースを実現することができました。(※2018年10月12日時点、当社調べ)これは、当初目指した男性用の多機能時計として最適なケースサイズとなっており、初代セイコー アストロンの誕生から約6年間の間に、約40%のサイズダウンを実現しています。

箱型アンテナをムーブメントに内蔵できたことによって、外装にはどんな変化がありましたか?

三島義雄(以下、三島):これまでの7Xシリーズ、8Xシリーズは、リングアンテナをセラミックベゼルの下に格納する構造だったため、ケース径やダイヤルリングの一番内側の「見切り径」に関して制約がありました。一方、5Xシリーズでは、新開発の箱型アンテナを内蔵したムーブメントがダイヤルの下にあるので、リングアンテナの配置による制約を受けることのないデザインが可能になりました。

最たる特徴は、世界最小最薄の小型ケースでありながら、セイコー アストロン シリーズでは最大となる見切り径30.8mmの広見切りを実現できたことです。これにより、全体としてすっきりしたダイヤルレイアウトが実現し、高い視認性を獲得できました。

また、ダイヤル面からガラス下までの「見返し高さ」を8Xシリーズに比べて約0.4mm薄くしながらも、アストロンの特長であるダイヤルリングの立体的造形を踏襲しています。見切り径が広くなったことで、ダイヤルリングにはアストロン史上最長の金属インデックスを備え、 さらに力強い形状の分針を配すことが可能になりました。なお、5Xシリーズでは金属インデックスをさらに斜めに植える技術を新たに開発しました。その採用によって、これまで以上に存在感を放つ質感の高いフェイスデザインが誕生しました。

「スーパースマートセンサー(自動時刻修正)」について教えてください。

澤田:「スーパースマートセンサー」は、セイコー独自の技術である「スマートセンサー」をさらに進化させた機能です。スマートセンサーが、1日1回、ダイヤルに太陽光が当たると5秒以内に自動受信をして、時刻修正を開始するのに対し、スーパースマートセンサーは、2つの異なる受信方法で最大1日2回の自動時刻修正を行うことで、より高い時刻精度を実現しています。

ひとつ目の光検出による受信では、太陽光を感知してから受信開始するまでの時間を、ユーザーの使用環境に応じて、より受信成功率の高いタイミングへ自動的に可変させる新システムを採用しています。太陽光を検出してからすぐに受信に適さない環境に移動してしまう場合、受信に失敗してしまうケースがありますが、太陽光を複数回検出できた時に、受信開始するように検出回数を自動調整するアルゴリズムを新たに搭載することによって、受信成功率を引き上げることを可能にしました。

ふたつ目の任意時刻設定による受信では、前回強制受信に成功した時刻に自動受信を行う仕組みになっており、冬など腕時計が袖に隠れて光検出ができない状態でも、毎日受信を行うことができます。

二段構えの受信方法によるスーパースマートセンサーに進化したことによって、受信成功率が向上したことは、開発陣が試作段階から継続的に行う携帯試験で実証済みです。「いつ見ても、1秒の誤差もなく時刻が合っている」という、精度への安心感を今まで以上に実感していただけるのではないかと思います。

また、2018年11月現在、5Xシリーズは、4機体制となっている準天頂衛星「みちびき」のすべてに対応しています。準天頂衛星システムは、複数機の人工衛星により構成される日本を含むアジア・オセアニア地域をカバーする地域的衛星測位システムで、とりわけ日本のほぼ真上に長時間留まるよう工夫されており、日本国内における受信成功率は、これまで以上に高まっています

メタルブレスレットに搭載した「スマートアジャスター」とはどのような機構なのですか?

三島:普段、腕時計を使っていると季節や体調、あるいは1日の中でも朝晩で腕まわりの太さが若干変化することがありますよね? 「スマートアジャスター」は、そのような時にブレスレットのサイズをワンプッシュで簡単に調節できる機構です。これまでのブレスレットでは、中留のばね棒と呼ばれる接合部品を外して長さを微調整していましたが、専用の工具が必要であり、お客様自身が簡単に調節できるものではありませんでした。5Xシリーズでは、必要な時に自在にブレスレットを最適な長さに調整でき、かつ心地良い装着感を備えた中留の実現を目標として開発にあたっていきました。

スマートアジャスターは、従来のセイコー アストロンの中留と同じ外観を保ちながら、2.5mmずつ2段階の伸縮が可能です。ピッチを縮めたい時はシンプルに押し込みのみの操作で、ピッチを伸ばしたい時は、中留のサイドにあるボタンを押しながら引っ張ることで、簡単に調整できる仕様になっています。パーツの寸法を細かく作り込むことによって、使い勝手が良く、かつスムーズな操作性が継続する中留を実現することができました。また当初目指した通り、装着感についても格段に向上しています。

外装の特徴についてさらに詳しく教えてください。

三島:ムーブメント設計と同様に、外装設計においてもセイコー アストロンがこれまで築いてきた伝統を継承しながら、第3世代を担う5Xシリーズならではの進化を遂げています。

ケースはこれまでのモデルとは異なる趣が特徴的な、ケースからかん足がすらりと伸びたタイプを採用し、稜線がシャープに際立つ面構成になっています。ケースとセラミック縁の間には、鏡面仕上げを施した飾り縁をあしらっており、筋目仕上げを施したケースに映えて、きらりと品位のある光を放ちます。また、2時位置と4時位置に配したボタンは、クリック感のあるボタンの操作性をより快適にするために、凹型の丸みをつけ、指の腹がぴったりと収まる仕様を実現しました。

メタルブレスレットは、8Xシリーズの形状を引き継ぎながらも、新しい5列の配置を採用しました。5Xシリーズでは内側を3列とし、両サイドのパーツと合わせて5列の構成としています。加えて、3列の中心パーツには鏡面仕上げを施し、スマートでありながらも存在感のある、次世代にふさわしい先進的なデザインに仕上がっています。完成品で見ると分かりにくいかもしれませんが、コマの一つずつは4つの部品でできています。それらの部品は、ひとつずつ手作業で作り込み、磨き上げられています。その部品を隙間なく組み合わせていくのは、熟練の職人のみが成し得る高度な技術です。

開発の過程で、苦労したのはどんな点ですか?

三島:やはりこれまで以上に小型化、薄型化を実現したムーブメントにふさわしい外装を作り込むのに苦心しましたね。受信感度に影響を与えることのないよう、ムーブメント設計と連携しながらケースやダイヤルの設計を行い、スマートアジャスター、インデックス付きダイヤルリングなど、新しい外装要素の開発にも同時に取り組んでいきました。

通常、設計から試作、評価、検討のプロセスを踏んで、商品を作り込んでいくのですが、今回はゼロから仕様や構造の見直し・検討を行い、かつスケジュールがタイトだったこともあって、試作図面を引き、ひとつの試作を走らせている間に、また次の試作図面を引いて試作を行うという具合で、並行して検討を進めていきました。厳密に数えたわけではないのですが、商品仕様が決まるまでに、従来の2~3倍の試作図面を引いたと思います。

特にスマートアジャスターについては悩むことが多かったですね。ボタンひとつで、中留開閉とアジャストのスライドを両立させる機構となっていますが、スライド時の操作における適正値(適度な押し込み操作感と解放時の操作感)のバランスを両立するための設計と、通常の中留ロックの基本規格を満たすための設計に苦慮しました。超えるべき幾つものハードルがあり、時として頭を抱えることもありましたが、皆が一丸となって開発を進めたことで、素晴らしい商品を完成させることができたと思います。

澤田:ムーブメント開発の観点では、「小型化」と「多機能化、付加価値向上」という、相反する要求にどうやって応えるかということに最も苦心しました。GPSモジュールの進化によって、アンテナの小型化を実現できましたが、アンテナを内蔵化すれば、その分他のムーブメント部品のスペースは圧迫されてしまいます。また、時・分・秒の独立構成を搭載するためには、モーター・輪列がその分必要になりますし、ボタンのクリック感を得るための部品も追加する必要がありました。限られたスペースの中に300個近い部品を収めるために、極限までデッドスペースをなくすよう、部品の配置を徹底的に調整することに努めました。もはや、ねじ1本を増やすすき間もないほどにです(笑)。

非常にタイトなスケジュールの中で、構造をゼロから見直したり、開発テーマが多かったこともあり、今まで以上に開発陣が一丸となって取り組む必要がありました。無理難題なお願いをすることも多々ありましたが、史上最高性能を誇るGPSソーラーウオッチ アストロンを世に出すという同じ目標を共有したメンバーは、快く力を貸してくれました。その意味では、5Xシリーズは、セイコーの総力を結集して作り上げた商品と言ってもいいのかもしれません。

セイコー アストロン初のレディスモデルモデル SBXC004が登場

2018年、セイコー アストロン初のレディスモデルSBXC004が発表されました。このモデルの特徴を教えてください。

澤田:SBXC004は、ダウンサイジングを果たしたことで実現したレディスモデルです。これまでにも限定モデルを発売したことがありましたが、女性用のレギュラーモデルとして打ち出すには、当時はまだサイズが大きすぎるという判断でした。今回5Xシリーズで実現したケース径42.9mm、厚さ12.2mmのサイズであれば、大ぶりな腕時計を好む女性にはマッチするのではないかという意向のもと、満を持して、セイコー アストロン初のレディスモデルとして発表するに至りました。

三島:リゾートシーンやラグジュアリーなシーンを想起させるカラーリングが特徴的なSBXC004は、チタンケースにはローズゴールドのダイヤシールドを採用し、11個のインデックスすべてにダイヤモンドをあしらい、女性らしい華やかさを演出しています。グローバルに活躍する女性のために生まれたGPSソーラーウオッチを多くの方につけていただけたら嬉しいですね。

今回、時計史における「第二の革命」を次のステージへと導く新たな一歩を進めたセイコー アストロン。次に目指すものは何でしょうか?

澤田:セイコー アストロンは、「いつ見ても時刻がぴったり合っている」という安心感・信頼感を持つことができる腕時計です。この良さをより多くのお客様に届けたいという想いのもと、さらなる小型化、薄型化の実現やデザイン展開の拡大など、今後も挑戦し続けていきたいと思います。

三島:まずは、進化した5Xシリーズをより多くのお客様に届けられるよう、日々しっかりと自身の業務に取り組んでいく次第です。今後はセイコー アストロンが築いてきた伝統を大切にしながら、新しい外装価値を創出できるようにチャレンジしていきたいです。