SEIKO

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修理技能士 笹川 修

セイコープレミアムウオッチ
サービスステーションとは

グランドセイコーと、セイコーのプレミアムブランド(クレドール、ガランテ)のアフターサービスを専門におこなう、セイコーサービスセンター内にある修理工房です。20数名のスタッフが所属しており、腕時計のメンテナンスや修理を行います。

ここへ持ち込まれる腕時計は、長年愛用されていた歴史あるものから、比較的最近発表されたものまで、実に様々です。それぞれのメンテナンスや故障に対応できるようセイコーサービスセンターには数万単位の部品を保管しています(一部保管していない部品もあります)。

また、各スタッフには、要件に合わせて対応できる優れた技術力が必要とされます。さまざまな製品に精通しているだけでなく、個々の製品の特性はもちろん、普段、腕時計と毎日接しているお客様の扱い方などを見抜いて的確な作業を行う、大変テクニカルな工房です。

修理技能士
笹川 修

1987年にセイコーサービスセンターに時計修理技能者として入社。以来、修理一筋に歩んで来た修理技能士。1996年に時計修理一級技能検定に合格して以来、時計技能競技全国大会で2連続優勝(第14回大会は第二部門優勝、第15回大会は第一部門優勝)を飾るなど、才能と実力を証明。さらに2013年には厚生労働省が評価する「卓越技能者厚生労働大臣賞」を受賞。同賞は別名「現代の名工」とも呼ばれ、名実ともに日本を代表する技能士の一人として認められました。

現在は、セイコープレミアムウオッチサービスステーションで手腕を振るう他、技能検定や時計技能競技全国大会の役員なども務め、広く業界の発展や後進の育成・指導にも貢献しています。

持てる技術の粋を集め、お客様の希望を叶える 修理技能士 笹川 修 インタビュー

修理技能士になって27年目ということですが、最初はどんなきっかけで入社されたのですか?

高校時代に進路決定で、もうある程度決めていました。実は始めから、何かを修理する職業になりたかったという気持ちがあって、それは家電の修理でも良かったのです。いくつかの募集を見ているとセイコーがあって、時計の修理も楽しそうだなと思ったのがきっかけです。

なるほど、最初から修理技能士を目指していたのでしたら天職ですね。数々の賞を取られているのも、その辺に理由がありそうですね。

競技会の連覇に関してはセイコーから出場した先人のおかげです。先輩方が前年初めて出場し、その経験から心構えなどのアドバイスをいただきました。私が出場したのは入社から10年が経過していた頃だったのですが、出場者の半分ぐらいは時計専門学校生でした。片や仕事としてやっている側、片やお金を払って勉強している側と、環境には大きな違いがあったので負けられないと思いましたね。妙なプレッシャーがありましたけど、勝てて良かったです(笑)。

様々な経験をなされてきましたが、仕事としてはやはり、やりがいのある職業ですか?

再修理や社内の検査欠点が少ないときは、単に個人の成績が良かっただけでなくお客様に喜んでいただいていると考えると、素直にうれしいと思いますね。

やはり結果が大事なのですね。仕事に対する心構えとかはありますか?

お客様が大切な腕時計を修理に出されるということは、少なくとも現状より良くなるはずだと信じているから、こちらへお預けいただけるのだと思います。ですから、その希望は叶えたいのです。

まだ、駆け出しの頃だったのですが、「修理に出す前より悪くなった」とお客様から言われたことがあります。確かに私の責任もあったのですが、とてもショックでした。それ以来、修理に出される方の希望を叶えたいという気持ちで、一件ずつ対応しています。お客様は100%直ると信じられていますから、可能な限りすべてのみなさまに満足していただきたいと思っています。

取扱いによる破損や経年劣化など、修理としては難しい事も多いと思うのですが、例えばどんな修理目標をお持ちになっていますか?

クオーツ製品でしたら電池寿命より長く正確に、機械式時計でしたら修理に出された時よりも良い精度というのが目標ですね。より良くしたいと思いますが、どのような状態にある時計でも、現状を維持できるだけの能力は発揮させたいです。

これは余談ですが、ある日、お預かりした時計の修理をしようとすると、10年前に私が修理したものとわかりました。本当に偶然ですが、再び私が担当することになり、電池はさすがに当時のものではありませんでしたが、数回電池交換し月日が経って分解掃除を依頼してきていただいたのだと思いました。大事にお使いいただいていることがよく分かり、これには本当に感動しましたね。

製品も毎年新しいものが発売されますが、その修理に対応するためにスキルを学んだりはするのですか?

まったく新しい機種が出たり、特殊機構が採用されるときは製造と協力しトレーニングをいたします。例えば、スプリングドライブのような新技術に関してはトレーニングの対象でしたね。

新旧織り交ぜた製品が日々届くのですから、生半可な知識や技術では追いつかない印象もあります。やはり、ここで働いている方々はエキスパートなのですか?

使われ方により特定のパーツの良否判定などを行いますから、判断する能力がないと対応できません。例えば歯車の真がちょっと摩耗しているが、性能を維持できるか?といった部分はそれまでの経験値でしか判断できません。

私共のところでは担当者が決まれば、メンテナンスや修理が終わってお客様へお届けするまで一人のスタッフが対応することになっています。責任感が持てるので品質向上や個々のスキルアップという意味でも大切な取り組みだと考えています。

修理で一番多い依頼は何でしょう?

止まりや遅れといった精度不良が一番多いですね。ただし、本当に故障なのかというと、そうでもないケースも多々見られます。検査しても遅れたり、進んだりということはない。よく調べて分かったのが、ぜんまいの巻き上げ不足だったということもあるのです。そのようなケースでは、お戻しする際に、一言ぜんまいの巻き方についてアドバイスを添える形で対応させていただいています。

ここへ送られる腕時計でメンテナンスの依頼がありますが、やはり定期的にメンテナンスすることが大切なのですか?

とても大切です。数年に一度メンテナンスすることで、そうした細部の摩耗や油の劣化具合を確認できますから、早期対応が可能になります。大きな故障が起こる確率が減るので、製品の寿命も延びます。

日常でお客様自身ができるお手入れ方法はありますか?

使ったら乾いた布で拭く、これはぜひ実行していただきたいですね。私は講師としてお話するときに「腕時計は肌に密着させて使うものだから、肌着と同じです」とよく言います。ちょっと汗をかけば肌着も汚れますから洗濯して取り替えます。腕時計を洗うのは抵抗がありますから、せめて乾いた布で拭いたりするぐらいはやっておいたほうが良いです。

逆にそのまま放置しておいたらどうなるかというと、たとえば汚れが堆積すればステンレスでもさびの原因になります。さびが進行すると、バンドだったらピンが折れますし、ケースだったら防水性が低下して内部に水分が入り込んでパーツを壊していく。また、クオーツ製品の場合は、そもそも正確なのでりゅうずを回すことをあまりしません。そこへ汚れが堆積していけば、りゅうずがさびで固着してしまい、いざ回そうとしたときに折れてしまうといったこともあります。

ですから、使い終わったら乾いた布で拭く、クオーツ製品なら時々りゅうずを空回しするといったことが必要なのです。

お客様の修理履歴を保管なさっているそうですが?

グランドセイコーとセイコーのプレミアムブランドは、保証書発行データをもとに、購入したときからカルテが作成され、修理履歴もそこで保管されています。これによって、お客様のメンテナンス状況などが把握しやすくなり、製品をお預かりした際により的確な作業が行えます。

笹川さんにとって自分の好みの腕時計ってあるのですか?

最近の腕時計は厚さがありますよね。実は自分は厚い時計をするとぶつけやすいのです(苦笑)。ですから、ずっと薄型のクオーツ時計を使っていたのですが、機械式も手巻だと薄いデザインのものがあるのでそれも持っています。あと、先ほど汗は拭き取るようにと言いましたが、自分も汗かきなので注意しています。

— 若手の方も技能五輪で入賞されたり、その成果は現れ始めていますね。今後も楽しみにしています!