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国産初のダイバーズウオッチ
メカニカル自動巻の150m空気潜水用防水仕様。防水に優れたダ イバーズウオッチとしてだけでなく、1966年から4回に渡り、南極観測隊越冬隊員の装備品として寄贈され、極低温下での信頼性が証明された。
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150m空気潜水仕様ダイバーズウオッチ
メカニカル自動巻の150m空気潜水用防水仕様。1965年の国産初のダイバーズウオッチに続く150mダイバーズウオッチ。キャリバー6105が搭載された前期型モデル。
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150m空気潜水仕様ダイバーズウオッチ
メカニカル自動巻の150m空気潜水用防水仕様。1968年に発売された前期型モデルと同じムーブメントを搭載しながらケース形状を刷新した後期型モデル。
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世界初、チタン製ケース採用の飽和潜水仕様600m防水ダイバーズ
この世界初のチタン製ダイバーズウオッチには、衝撃に強い「外胴プロテクター」構造、気密性・水密性に優れる「L字型パッキン」、深海潜水の腕周りの変化に対応した「蛇腹式ポリウレタンストラップ」など外装だけでも23件の独自技術(特許、実用新案、意匠登録)が盛り込まれている。
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150m空気潜水仕様ダイバーズウオッチ
メカニカル自動巻の150m空気潜水用防水仕様。諏訪精工舎(現・セイコーエプソン)製としては後期のメカニカルダイバーズウオッチで、世界的に人気の出たモデル。
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世界初のクオーツ式飽和潜水仕様の600m防水ダイバーズ
世界初のクオーツ式ムーブメントを搭載した600m飽和潜水仕様のダイバーズウオッチ。1978年に日本大学隊および植村直己氏が北極探検に使用。さらに1983年にJAMSTEC(現・海洋研究開発機構)の有人潜水調査船「しんかい 2000」で耐圧性能を遙かに超える、1,062mまで潜航し無事帰還。圧倒的な耐圧性能を実証した。
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世界初のハイブリッド表示の
150m空気潜水仕様ダイバーズウオッチムーブメントには、液晶表示を12時位置に傾斜させてよみやすくしたハイブリッド表示のクオーツムーブメントを搭載。
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男女兼用の小型クオーツダイバーズウオッチ
男女兼用を目的とした中間サイズのモデルで、セイコーオリジナルの蛇腹式ポリウレタンストラップを使用した150m空気潜水仕様ダイバーズウオッチ。
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世界初のセラミックス外胴プロテクター式
飽和潜水用1000m防水ダイバーズセラミックスを外胴プロテクターの素材に世界で初めて採用。軽量、高耐食、高強度のチタン製ケースは、裏ぶたの無いケース構造によって1,000m飽和潜水用防水を誇る。
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世界初の無減圧潜水を自動管理する
ダイビングコンピューターウオッチ潜水を開始するとオートスイッチ機構で潜水時間、水深などの多くの潜水情報を自動計測する。また潜水後、自動的に水面休止時間を計測し、次回の無減圧潜水情報を表示するダイビングコンピューター。1992年に海上自衛隊の掃海部隊がペルシャ湾での機雷掃海に使用。
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200m空気潜水仕様キネティックダイバーズ
クオーツとしての高精度を維持しながらも、電池交換を不要とした自動巻発電のキネティックムーブメントを採用。
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世界初の24時針つき200m空気潜水仕様キネティックダイバーズ
時差修正が容易な24時針つきのキネティックダイバーズ。ブライトチタン素材のワンピース構造で堅牢性、耐久性に優れる。1997年、ピピン・フェレラスが500フィート(152.5m)のフリーダイビング世界記録達成時に使用。
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世界初のフルオート計測アナログ式水深計つき
200m空気潜水仕様ダイバーズセンサーが水分・水圧を検知すると自動的に計測を開始するフルオートスイッチ機構を搭載したアナログ式の多機能ダイバーズウオッチ。水深や時間を全自動で計測するのみでなくログデータメモリーや警告機能など多くの機能を有していた。
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世界初のナイトロックス・マルチレベル潜水仕様の
ダイビングコンピューターウオッチ1990年に発売されたボックスダイビング仕様のダイブコンピューターウオッチを進化させ、潜水プロファイルを刻々と記録するマルチレベルダイビング仕様にアップデート。さらに、酸素濃度が高い呼吸気体を使用するNX(ナイトロックス)と呼ばれるダイビングにも対応可能なハイテクダイビングコンピューターウオッチ。
ムーブメント設計 三谷 敏寛
外装設計 小林 篤志
セイコー プロスペックス
妥協なき探究心により実現した
「クオーツダイバーズウオッチ」とは?
1978年、世界初のクオーツ式プロフェッショナルダイバーズ600mが誕生した。従来のメカニカルダイバーズウオッチに比べ、時間精度を約100倍向上させただけでなく、深海の過酷な環境下に耐えうる信頼性が第一のダイバーズウオッチにとって不可欠な、視認性の高い大きな針を運針させる高いトルクや、耐磁性・耐衝撃性など、メカニカルダイバーズウオッチに比肩するすべての性能を実現した。
1986年には、さらなる進化を追求したクオーツムーブメントキャリバー7C46を搭載した世界初のセラミックス外胴プロテクター式飽和潜水用1000m防水ダイバーズを発表。耐衝撃性と視認性をさらに向上させ、高トルクを維持しながら電池寿命を3年から5年へと長寿命化することに成功。より高度な安定性と信頼性を実現すべく、セイコー技術陣の揺るぎない探究心から生まれたこのムーブメントは、2018年、「1978 クオーツダイバーズ」40周年を記念して発表したデザイン復刻モデルをはじめ、現行モデルの数々に搭載されている。
ムーブメント設計
三谷 敏寛
2007年セイコーエプソン株式会社入社。ウエアラブル機器事業部 WP企画設計部において、ダイバーズ用ムーブメントをはじめ、世界初のGPSソーラーウオッチ「アストロン」搭載の7Xシリーズ、8Xシリーズなどセイコーブランドのムーブメントの開発・設計に携わる。
外装設計
小林 篤志
1992年セイコーエプソン株式会社入社。ウエアラブル機器事業部 WP企画設計部において、プロスペックス ダイバーズウオッチをはじめ、多彩なモデルの外装設計を歴任。近年は同部署のシニアスタッフとして、外装設計とともに新ムーブメントの立ち上げも担う。
クオーツダイバーズウオッチの
進化
ムーブメント設計 三谷 敏寛 |
外装設計 小林 篤志
インタビュー
2018年、「1978 クオーツダイバーズ」40周年を記念してデザイン復刻モデルが誕生した。世界中のプロフェッショナルダイバーが厚い信頼を寄せてきたセイコーのダイバーズウオッチには、数多くの技術者によって開発された世界初の独自の技術が数多く盛り込まれている。国産ダイバーズウオッチの歴史に残る革新的なオリジナルモデルの軌跡を知るために、ムーブメント設計の三谷敏寛と外装設計担当の小林篤志に話を聞いた。
1975年、初代プロフェッショナルダイバーズ600mが登場
1975年、世界初、チタン製ケースのプロフェッショナルダイバーズ600mが発表されました。開発のきっかけとなった“一通の手紙”は、どのような内容だったのですか?
小林篤志(以下、小林):1968年に広島県呉市に住むプロフェッショナルダイバーからセイコー(当時の服部時計店)に届いた手紙の内容は、「現在市販されているダイバーズウオッチは、国産品も輸入品も、300m以深の深海潜水において、高圧ヘリウム混合ガスを呼吸気体として用いる飽和潜水の環境下には耐えられない」という趣旨のものでした。
セイコーは、この投書に対して完璧な答えを出すために、開発プロジェクトチームを結成し、多くの実験・試作を繰り返しました。そして、1975年、長年の研究開発の末、長時間に渡る飽和潜水に耐え得る安全性、耐久性を実現した、世界初チタン製ケースのプロフェッショナルダイバーズ600mを完成させました。このモデルには、外装だけでも23件の独自技術(特許、実用新案、意匠登録)が盛り込まれています。
1975 プロフェッショナルダイバーズ600mに搭載された23件の外装独自技術(特許、実用新案、意匠登録)
- 純チタン材から成る高性能ダイバーズウオッチケース(ケースと外胴プロテクター)
- フラット形状を可能にしたハードレックスガラス
- 高強度ポリウレタン素材から成る高性能ラバーストラップ
- 水分およびガス透過率が低い高性能ガスケット・パッキン素材
- 純チタンから成る耐食性・耐久性などに優れる高性能な着脱外胴固定用ねじ
- 耐擦傷性の高い透明プラスチック材に目盛が埋め込まれた回転ベゼル表示板
- 純チタンから成る耐食性・耐久性などに優れる高性能ねじ式ガラス固定リング
- 難加工素材であるチタン材の加工技術(熱間鍛造・特殊切削・ろう付け技術など)
- 純チタン材の表面を硬くし耐擦傷性を高めるセラミックス材の溶射被覆加工による外胴プロテクターの硬化処理
- クリックボールとスプリングをユニット化しケースへ固定したクリック部(回転ベゼル構造)
- ケースの外に外胴プロテクターを着脱可能に構成したケース構造
- 防水性・耐ガス性・耐久性に優れる、裏ぶたのないワンピースケース構造
- ムーブメントに装着した機械固定パッキンを介し、上からねじリングで固定する構造
- L字形状のガスケットをガラスの下部に設け縦横に押圧してシールするガラス部防水構造
- カバーガラスを回転ベゼルから一段下げて衝撃から保護するガラス部保護構造
- 透明樹脂をガラス内面に被覆した低温でも曇りが生じない防曇処理ガラス
- りゅうずパッキンを縦横に押圧する高性能ねじロックりゅうず構造
- 伸縮性を持たせるためにストラップの一部に蛇腹状の伸縮部を設けた構造
- 手首の動きを邪魔しない4時位置りゅうず
- 視認性に優れる夜光塗料を立体的に構成したインデックスを含むダイヤルデザイン
- 暗い環境でも視認性に優れる夜光塗料を塗布した判読性の良い時針
- 暗い環境でも視認性に優れる夜光塗料を塗布した判読性の良い分針
- 暗い環境でも視認性に優れる夜光塗料を塗布した判読性の良い秒針
「1975 プロフェッショナルダイバーズ600m」に搭載された外装の独自技術について教えてください。
小林:まず、ダイバーズウオッチとしては、世界で初めてチタン素材を採用した裏ぶたのないワンピースケースを搭載しています。ステンレススチールと比べて約55%も軽量で、耐食性に極めて優れたチタンは、海水中でも錆びにくく、剛性にも長けているうえ、肌に優しく、金属アレルギーを起こしにくいなど、さまざまな特性を兼ね備えています。それらを活かしたワンピースケースは、海水や高圧ヘリウム混合ガスの侵入経路を最小限に抑えるだけでなく、水圧に対しても有利な構造になっています。裏ぶたとケースが別個になった二体構造の場合、裏ぶたのみで水圧を食い止めるので、水圧を受ければ受けるほど、たわみが生じることは否めません。その一方、ワンピースケースは、全体で水圧を受け止めるので、たわみが大幅に軽減されます。強靭な構造でありながら、裏ぶたの底面からケース側面に続く部分が薄く作られ、心地良い装着感も備えています。
また、飽和潜水仕様で最も重要な気密性・水密性に優れたL字型ガラスパッキンや、Oリング(オーリング)からなるりゅうずパッキンを縦横の四方向から押圧するりゅうずツインサイドシールド構造、ねじリングガラス固定構造など、セイコーが独自に開発した世界初の技術を採用することで、より密閉度を高め、過酷な環境下に耐えうる防水性・安全性を実現しています。深海潜水の際、ウェットスーツを着用していても、水圧によって腕まわりが2cmほど伸縮するため、強度と伸縮性に優れた蛇腹式ポリウレタンストラップも独自開発しました。
もうひとつ忘れてはならないのは、チタン素材にセラミックス溶射コーティングを施した外胴プロテクターです。特殊加工によって生まれた硬質皮膜が外部の衝撃から頑強に守ります。開発当時、加工が極めて難しいとされていたチタンを採用し、世界最高峰の水密性、気密性、そして耐食性や耐擦傷性などの耐久性能を盛り込んだ画期的なモデルを完成させたことは、その技術力の高さを示す何よりの証といえるのではないかと思います。
これらの技術は、のちに続くセイコーのダイバーズウオッチにも受け継がれているのですか?
小林:セイコーダイバーズの代名詞ともいえる外胴プロテクターや裏ぶたのない一体構造のワンピースケースをはじめ、「1975 プロフェッショナルダイバーズ600m」に搭載された技術の数々は、その登場から3年後の1978年に発表された世界初のクオーツ式飽和潜水仕様の600m防水ダイバーズを皮切りに、現在に至って、脈々と受け継がれています。「1975 プロフェッショナルダイバーズ600m」の特殊構造から生まれた性能は、1983年に海洋科学技術センター(現JAMSTEC)で実施された30気圧高圧ヘリウムガス環境下での気密性テストでは、他社ダイバーズウオッチの数倍~数十倍優れた気密性を備えていることが証明されました。実際のプロフェッショナルダイバーの使用に耐えうる製品を作るセイコーのプロフェッショナルダイバーズの礎を築いたといえます。
高圧ヘリウム混合ガスが腕時計の中に入ってしまうと、何が起こるのですか?
小林:深海の環境下では、気圧よりもはるかに圧力の高い水圧がかかるため、ダイバーたちは、潜水前にあらかじめ地上で作った高圧環境で体を慣らしてから潜水します。海中での作業を終えたあとは、徐々に浮上していき、地上に上がってから、ゆっくりと減圧作業を行っていきますが、侵入した高圧ヘリウムが浮上により低圧下で膨張して破壊につながってしまう危険性があります。
高圧ヘリウム混合ガスを排出する構造を採用している他社のダイバーズウオッチもありますが、時として、プロフェッショナルダイバーにとって命綱となる腕時計において、セイコーは、より気密性や水密性などの信頼性を高めるために、高圧ヘリウム混合ガスの侵入経路そのものを可能なかぎり遮断する独自の構造を採用しました。それが、先にも述べたL字型ガラスパッキンやりゅうずツインサイドシールド構造、ねじリングガラス固定構造などの特許技術を駆使した強靭なワンピースケースです。
1978年、セイコー初のクオーツダイバーズウオッチにして、
世界初のクオーツ式プロフェッショナルダイバーズ600mが誕生
1978年に発表された世界初、クオーツ式飽和潜水仕様の600m防水性能を備えた「1978 クオーツダイバーズ」。その開発に至る背景について教えてください。
三谷敏寛(以下、三谷):1969年12月、セイコーが世界に先駆けて発売したクオーツ式時計「セイコー クオーツ アストロン」の登場によって、時計の精度は飛躍的に向上し、世界中の人々が容易に正確な時を知ることができる社会が実現しました。機械式時計に代わる新たなスタンダードとしてクオーツ式時計への置き換えが着々と進む中、1975年には世界初のチタン製ワンピースケースを搭載したプロフェッショナルダイバーズ600mを発表しました。この画期的なメカニカルダイバーズに続く「1978 クオーツダイバーズ」の開発過程では、超えるべき幾つものハードルがありました。
具体的にはどのような課題があったのですか?
三谷:最大の課題はふたつありました。ひとつ目は、「1975 プロフェッショナルダイバーズ600m」に比肩するクオリティが求められたことです。とりわけ、深海の過酷な環境下に耐えうる信頼性が第一のダイバーズウオッチにとって不可欠な視認性、耐磁性、耐衝撃性の性能を確保することは、最優先事項でした。社内規格に基づく要求品質は次の通りです。
1,視認性
暗いところで、25cmの距離から、目視で時刻を明確に確認できなければならない。そのため、時分針、秒針のいずれも、大きくかつ判別ができる針であること。
100m以深の潜水環境は、真っ暗闇のため、夜光塗料を施した針であること。
2,耐磁性
海底で電気溶接の作業に従事する人が、磁気の影響を受けないようにするため、直流磁界4800A/m以上の磁界に耐えうる腕時計であること。
※直流磁界4800A/mは、約60ガウスに相当する。日常生活において、磁界を発生する機器に耐磁時計を5cmまで近づけても、ほとんどの場合に性能を維持できる水準。
3,耐衝撃性
1mからの自由落下で加わる衝撃に対し、所定の性能を満足しなければならない。
ダイバーの過酷な環境においても耐えうる性能であること。
もうひとつの課題は、メカニカルムーブメントからクオーツムーブメントに置き換えながらも、視認性の高い大きな針を運針させる高いトルクや、耐磁性を備えたダイバーズウオッチを具現化することでした。ぜんまいがほどける力によって生じるトルクを駆動源とする機械式時計が、高トルクかつ耐磁性能に有利な構造であるのに対し、クオーツ式時計は、機械式時計に比べて高精度である一方、電磁モーターを駆動源としているので、高トルクが出しづらく、また磁気回路であるため、耐磁性能には不利な構造でした。ムーブメントの特性が根本的に違うこともあり、具現化への道のりは平坦ではありませんでした。
「1978 クオーツダイバーズ」に搭載したクオーツムーブメント キャリバー7549を開発するうえで、どのように課題をクリアしていったのですか?
三谷: キャリバー7549には、1975年のメカニカルダイバーズに相当する、大きく視認性の高い針を動かせる高トルクが必要でした。夜光塗料を塗るだけでも重量は変わってきますし、塗るにしても、ある一定の範囲がなければ、塗れない部分があるため、ダイバーズウオッチの針は必然的に大きくある必要があります。わずかな差に思われるかもしれませんが、一般的なクオーツムーブメントでは、この違いでも針が動かなくなってしまうことがあります。逆に言うと、クオーツムーブメントのトルクは、日常使いのための腕時計を駆動するには十分ですが、ダイバーズウオッチの太く、大きな針を動かすためには、メカニカルダイバーズ並みの高いトルクが必要ということです。そこで、モーター自体のコイル体積・巻仕様、磁心体積を最適化およびステーター形状の最適化を行い、高トルクモーター仕様にすることで、正確な運針を可能にしました。本来、高トルクにした場合、トレードオフで消費電流が上がり、電池寿命が短くなる傾向にありますが、消費電流と電池容量のバランスの最適化を図ることにより、電池寿命3年に十分余裕のある安全性を確保できました。
高トルクにすることによって、耐衝撃性も高められたのですか?
三谷:外部からの衝撃に対しては、二重構造の外胴プロテクターを備えた強靭な外装で吸収する仕組みになっていますが、高トルクにしたことによって、落下した時や何かにぶつけた時などに、針が飛んでしまわない衝撃性は高められています。大きな衝撃を受けて、針が逆回転してしまうと、ローターも逆に回り出し、おのずと時間に狂いが生じます。しかし、トルクを大きくすることによって、ローターが保持する力が高くなるため、衝撃があっても、針がその方向に回ろうとするのを食い止めることができます。
耐磁性能について行った対策について教えてください。
三谷:クオーツ式時計は、電気・磁気回路であるため、外部から強い磁気を受けると、駆動源であるローターが一時的に止まり、狂いが生じることがあります。これを防ぎ、「1975 プロフェッショナルダイバーズ600m」に匹敵する耐磁性能を確保するために、キャリバー7549では、ムーブメントの全面を覆う耐磁板を採用しました。
「1978 クオーツダイバーズ」は、セイコー初のクオーツダイバーズであり、世界初のクオーツ式プロフェッショナルダイバーズ600mです。高トルク、耐磁性など、メカニカルダイバーズウオッチと同等レベルの性能を実現しただけでなく、従来のメカニカルダイバーズウオッチに比べ、時間精度を約100倍向上させ、ダイバーウオッチとしての信頼性をさらに向上させることに成功しました。
このモデルに採用した社内規格は、現在のダイバーズウオッチの国際規格にも影響を与えたそうですね。
三谷:はい、キャリバー7549を開発するにあたって、セイコーが掲げた「視認性」「耐磁性」「耐衝撃性」の3つの要求品質は、1981年7月に制定されたISO(国際標準化機構)6425と、1993年1月に制定されたJIS(日本工業規格)B7023のベースとなっています。ISO規格の制定、改廃の管理については、国産ダイバーズウオッチのパイオニアである弊社の技術者が、日本時計協会の国際規格委員会の座長として推進してまいりました。
このモデルは、発売年と同じ1978年の日本大学隊および植村直己氏の北極探検で使用され、1983年の海洋科学技術センター(現JAMSTEC)との共同実験では、有人潜水調査船「しんかい2000」で水深1,062mまで潜航し、防水性、精度、操作性、外観などすべてに問題なく帰還するなど、歴代モデルと同様に、冒険者たちとともに数々の極地へと赴き、その信頼性を実証してきました。
クオーツムーブメントを搭載するにあたって、刷新したケース構造があれば教えてください。
小林:「1978 クオーツダイバーズ」では、1975年に発表した初代プロフェッショナルダイバーズ600mで培った外装の基本構造を踏襲しながら、さらなるバージョンアップを図りました。軽量化のために、外胴の12時と6時方向に伸びていた“裾”を切り詰め、よりシャープな外装を実現するとともに、視認性をより高めるために、時分針・秒針の夜光塗料を施す範囲を微細に変えています。また、1975年モデルでは、秒針の先端に付いていた丸い形状のディテールが、「1978 クオーツダイバーズ」では、見やすさを配慮して、ひと回りサイズを小さくし、末端にあしらってあります。3時位置のカレンダーも、日付カレンダーから日付・曜日カレンダーに変更し、ダイヤルの見やすさにも配慮しました。
最たる刷新は、当時としては最新の表面処理技術・イオンプレーティングを駆使し、窒化チタンと呼ばれるゴールドの硬質皮膜コーティングを回転ベゼル本体、内胴、りゅうず、外胴固定ねじ、蛇腹式ポリウレタンストラップの美錠とつく棒に施し、さらなる耐久性を高めたことです。ケースの素材は、1975年モデルと同様に、軽量・高耐食性・耐アレルギーと三拍子の特性を兼ね備えたチタンを採用していますが、深海の過酷な環境での使用を踏まえると、より改良を加える必要がありました。窒化チタンの硬質皮膜コーティングを施した表面は、耐摩耗性に優れているため、擦り傷に強く、チタンと同様に、金属アレルギーの問題もありません。1976年ごろに、当社で量産技術開発をスタートさせたイオンプレーティングをダイバーズウオッチに搭載したのは、このモデルが初めてです。プロフェッショナルダイバーズウオッチとして、ムーブメントとともに、外装も進化を遂げました。
「1978 クオーツダイバーズ」の登場以来、ブラックの中にゴールドを効かせた伝統的なカラーリングは、高品質の証としてセイコーのダイバーズモデルに長く採用されています。“ブラック×ゴールド”にした理由は何だったのですか?
小林:お話してきたように、「1978 クオーツダイバーズ」には、品質を向上させるためにさまざまな趣向を凝らしてきました。ブラックとゴールドの組み合わせは、あくまで、その結果として得られたものであり、カラーリングが先行ではなかったんですね。外胴のブラックは、耐擦過(たいさっか)性を高めるために、チタンにセラミック粒子を溶射処理で施すという、当時最新の硬化処理を行った結果の色であり、ゴールドは、イオンプレーティング技術によって窒化チタンの硬質皮膜コーティングを表面に施した結果の色です。
今でこそ、装飾品や切削工具、金型など、幅広い分野で応用され、カラーバリエーションも豊富なイオンプレーティングですが、開発当時、このモデルに採用できたのは、ゴールドのみでした。とりわけ腕時計は、加工の色味ひとつにおいても、極めて高度な品質が求められます。その品質が十分に確保されていなければ、今も昔も、セイコーの製品に搭載することはありません。
さらに進化を遂げた7C46クオーツムーブメント搭載
1986年、世界初のセラミックス外胴プロテクター式飽和潜水用1000m防水ダイバーズを発表
1986年、世界初のセラミックス外胴プロテクターを備えた飽和潜水仕様のプロフェッショナルダイバー1000mが発売されました。このモデルに搭載されたクオーツムーブメント キャリバー7C46の特徴について教えてください。
三谷:キャリバー7C46は、「1978 クオーツダイバーズ」に搭載したキャリバー7549のさらなる進化を追求したクオーツムーブメントです。耐衝撃性を向上させ、長寿命化を図り、視認性を高めることで、より高度な安定性と信頼性を追求しました。耐衝撃性における課題は、キャリバー7549を超える耐衝撃性を実現させることでした。これに対し、ムーブメントの大半の体積を占める地板の素材を金属から、その約20~25%の比重のエンジニアリング・プラスチックに変更することで、大幅な軽量化を図り、耐衝撃性を高めました。自由落下の場合、衝撃力は、重力加速度、落下距離、物体の重量の3つの要素によって決まってきます。重量によって衝撃力は変動するため、地板を軽量化することで、そのパラメーター(媒介変数)を低くし、衝撃力自体を抑えることができるので、耐衝撃性が有利になるという仕組みです。
次に、長寿命化についてですが、キャリバー7549の電池寿命は3年と十分な安全性を備えていましたが、さらに電池寿命を延ばし、信頼性を高めるという命題のもと、さまざまな施策を打っていきました。試行錯誤の末、自社製の新規IC(集積回路)を開発し、その制御方法の改良を行い、モーター設定を見直し、低パワー化を図ることによって、電池寿命を3年から5年へと延ばすことに成功しました。
キャリバー7C46では、通常はミニマムの低パワーで駆動させ、何らかの負荷がかかり針が正常に動作しなかった時には、すぐさま電流波形を検出し、高トルクを出すことができる「パルス幅制御モーター」という制御方法を採用しています。腕時計を駆動させるために、常に大きなトルクを出す必要はなく、予期しない事態が起きた時に正常に動かせるだけのパルス幅の電流を送ることにこそ、高トルクモーター仕様の利点があります。
特筆すべき点は、キャリバー7549と同じ電池を使っているにもかかわらず、ムーブメントの厚さも、高トルク仕様も維持しながら、電池寿命を延ばしたことです。電池を大きくすれば容量も増え、トルクを下げれば、寿命は延ばせましたが、それを行うと、ムーブメントは厚さを増してしまいます。キャリバー7549で培った構造や性能をそのまま維持しながら、長寿命化を実現できたのは、新たに独自開発した自社製のICに依るところが大きいといえます。
7549よりさらに視認性を向上させるために、7C46ではどのような対策を行ったのですか?
三谷:キャリバー7C46では、3針用ムーブメントでは初となる「秒押さえばね構造」を採用しています。これは、通常、クロノグラフなどに使用している構造で、秒かなばねという薄いばね状のパーツによって秒針のふらつきを抑制することができます。「1986 プロフェッショナルダイバーズ 1000m」では、かなり大きな秒針を採用しているため、目盛りと正確に合致させるためにも、ふらつきの抑制は不可欠ですが、この特殊な構造を1秒運針で進むダイバーズウオッチに採用したのは、当時の技術陣が、いかに信頼性を高めようとしたかということの現れだと思います。解析の手法もない時代だったので、設計の過程では、トルクとのバランスを見極めながら、ばね幅など、数グラム単位の調整を行い、トライアンドエラーを繰り返したと聞いています。秒押さえばね構造は、秒針のふらつきを抑え、視認性を向上させるとともに、その秒針が目盛りと合致することは、つける人に安心感を与える効果も備えています。
「1986 プロフェッショナルダイバーズ 1000m」にキャリバー7C46を搭載するうえで、外装の面ではどのようなスペックアップを図ったのですか?
小林:まず、防水性能を600mから1000mへと大きく引き上げたことが挙げられます。三谷が前述した通り、「1978 クオーツダイバーズ」は、1983年に実施した有人潜水調査船「しんかい2000」での共同実験で、水深1,062mまで潜航した記録がありますが、1000mへのスペックアップに伴い、さらに安全率を高めるため、次の4つのパーツに改良を加えました。
まず、それまでの強化無機ガラス(ハードレックス)の材質改良などで、強度アップを図りました。次に、ムーブメントをより薄くし、その分、ケースに厚さと強度をもたせるという発想のもと、キャリバー7C系のムーブメント開発と共同で、ワンピースケースの強度を高めることに努めました。ケースサイズは、「1978 クオーツダイバーズ」と同等に抑えたまま、10%の強度アップを実現しています。
3つ目は、外胴プロテクターの素材の変更です。溶射処理でセラミックスの粒子を施したチタンから、ビッカース硬さがステンレススチールの約7倍(当社製品比)という極めて優れた耐傷性能を持つジルコニアセラミックスに変えています。当時、セラミックス材料としては、超硬バイトのアルミナセラミックスが一般的でしたが、切削が困難なため、腕時計の素材に採用するには厳しいものでした。そこで、セラミックメーカーと共同で、ダイバーズウオッチに使用するという前提で、金属に近い特性を持つジルコニアセラミックスの開発をスタートしました。開発途上だった素材を進化させ、このモデルに用いたことで、セラミックス製の外胴プロテクターは、今やセイコーダイバーズの顔となりました。
4つ目の改良としては、回転ベゼルの機能性の向上を図りました。潜水時の安全性を高めるために、120分割の精密なクリック回転が得られる高性能な分割精度を実現しています。120分割では30秒刻みになるので、ダイバーにとっては、ベゼル上での潜水の経過時間がより正確に知れるというメリットがあります。
ダイビングでの潜水時間は、空気残量によって管理します。そのため、現行のダイバーズウオッチでは、ベゼル上での経過時間が、実際の潜水時間より短くならないように、空気の残量が少ない方を指し示す安全サイドの反時計回りにしか回転しない構造になっています。この逆回転防止ベゼルをダイバーズウオッチに採用したのは、「1986 プロフェッショナルダイバーズ 1000m」が初めてです。
安全性を第一とするセイコーダイバーズを体現する「トリプルセーフティ機構」ですね。
小林:その通りです。トリプルセーフティ機構は、安全性をはじめ、特殊な潤滑剤を含浸させたパッキンをケースと回転ベゼルの間に使用することによって、不用意にベゼルが回りにくく、かつ回転の操作性に優れているだけでなく、指での回転に必要な部位だけの切り欠きを形成したベゼル全体を覆う外胴プロテクター構造で、回転ベゼルを衝撃から守る耐久性を備えた構造になっています。
軽量で耐食性が高く、高い強度を持つセラミックスとチタンの組み合わせによって、世界最強のダイバーズウオッチが誕生しました。「1986 プロフェッショナルダイバーズ 1000m」で開発した機構の数々は、今もなお、セイコーダイバーズの現行モデルに受け継がれています。
2018年、「1978 クオーツダイバーズ 復刻デザイン」が発表されました。その特徴について教えてください。
小林:デザインは、国産ダイバーズウオッチの歴史に残る偉業を称えるべく、「1978 クオーツダイバーズ」からはじまったブラック×ゴールドのセイコーダイバーズの伝統的なカラーリングに加え、12時、6時、9時位置のインデックスや時分針の形状やベゼル上の目盛りのフォントなど、オリジナルモデルのディテールを可能な限り再現しつつ、現代のテクノロジーと素材によってスペックアップして復刻したものです。インデックスや時分針・秒針にあしらったルミブライトには、暗闇でもより残高輝度が高まるよう、改良を重ねました。常に進化していくことを目指すセイコーのダイバーズウオッチはプロフェッショナルツールとしての信頼性を高めるために、最新モデルの細かな部分にも改良を加えました。