アストロン X 時計専門誌 クロノス日本版 「今、セイコー アストロンを選ぶ理由」

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
髙井智世:取材・文 Text by Tomoyo Takai

常に時代の一歩先を行くセイコーの最進化形
―― ALWAYS ONE STEP AHEAD OF THE REST ――

1969年12月25日、世界初のクォーツウォッチ、初代「クオーツ アストロン35SQ」を発売することで、時計業界に“第一の革命”を起こし、世界の時計産業を大きく変えたセイコー。2012年には世界初のGPSソーラーウォッチ「セイコー アストロン」を発表し、再び時計業界を大きく変革する“第二の革命”をもたらした。この進取の気象は、いずれもセイコー創業者の服部金太郎の理念「常に時代の一歩先を行く」にさかのぼることができる。高精度を超えた超高精度の革新性を当たり前のものにする使命を担った“新生アストロン”は、奇しくも初代と同じ軽薄短小の進化の過程を歩み、そして今、新たなスタンダードとして十分たる成熟を遂げた。


1860/1881

セイコー創業者の服部金太郎(1860~1934年)。日本の時計産業の近代化を牽引し、後に「東洋の時計王」の異名を取った。
セイコー アストロン 服部金太郎 生誕160周年記念限定モデル
SBXC073

2020年、服部金太郎の誕生日(旧暦)である10月9日に発売された記念モデル。「アストロン史上最高性能」という謳い文句とともにキャリバー5X系を搭載。ブラックとゴールドカラーの重厚なチタンケースには従来より約1.5倍の実用硬度があるセイコー独自の最新の硬化技術「スーパー ブラック ダイヤシールド」を採用。屈強なジルコニアセラミックス製ベゼルには16面カットが施され、その輝きで創業者の偉業を寿ぐ。GPSソーラー(Cal.5X53)。セラミックベゼル×チタンケース(直径42.8mm、厚さ15.6mm)。20気圧防水。チタンブレスレット。世界限定2500本。生産終了。

創業者、服部金太郎の理念を受け継ぐ最先端モデル

 欧米にならい、日本で定時法の時刻制度が定められたのは1873年(明治6年)のこと。この大きな時代の変革期のただ中で未来を見通し、“精巧”な時計作りを固く決意したのが、1860年生まれの若き日の服部金太郎だ。かくして1881年に「服部時計店」(現セイコーウオッチ)を創立した金太郎は、携行時計といえば懐中時計が主流の時代に腕時計の到来を確信し、日本でいち早く腕時計の開発に取り組んだ。そして1913年に完成したのが国産初の機械式腕時計、直径わずか26.65mmという小型の「ローレル」だ。この衝撃的な成果に以降の国産時計業界は刺激を受け、製造力を底上げし、多くの追随者を生むに至った。

 創業者、服部金太郎の生誕160周年という節目を祝う記念モデルの機種に、同社が最先端テクノロジーの結晶である「セイコー アストロン」を選んだのもむべなるかな。はるか上空を巡るGPS衛星とつながり、世界のどこでも圧倒的高精度で時刻を指し示すGPSソーラームーブメント搭載機。この実現も、金太郎が掲げた「常に時代の一歩先を行く」という理念の下、その後継者たちが一歩一歩進んだ先に成し得たものである。


1900

(左)「服部金太郎 生誕160周年記念限定モデル」の裏蓋中央部には、1900年に服部金太郎が登録した商標である「丸角Sマーク」が鍛造加工で立体的にかたどられた。周囲には「常に時代の一歩先を行く」の英訳“ONE STEP AHEAD OF THE REST”と“KINTARO HATTORI”の文字がマーキングされている。「服部金太郎 生誕160周年記念限定モデル」のスペシャルボックス(中)。「丸角Sマーク」の特製ゴールデンピンバッジ(右)に加え、服部金太郎を曾祖父とする現在のセイコーウオッチ代表取締役会長兼CEOの服部真二氏からのメッセージカードと付け替え用のクロコダイルストラップが同梱された特別仕様である。

1900年に登録された商標「丸角Sマーク」に込められた意義

「服部金太郎 生誕160周年記念限定モデル」の裏蓋には、服部金太郎が1900年に商標登録した、セイコーの前身である服部時計店の「丸角Sマーク」があしらわれている。商標登録するとはつまり、自社商品の信用をさらに広く獲得していく意志の表れだ。このマークに当時の金太郎の大志をうかがい知ることができる。

 商標登録より5年の時をさかのぼった1895年、金太郎は初めて自社の掛け時計をアジアへ輸出し、また初の自社製懐中時計「タイムキーパー」の製造を成功させている。さらなる品質の向上と大量生産方式を目指し、4年後の1899年には欧米の時計メーカーを歴訪、視察した。帰国するや世界レベルの新式工作機械を自社に導入している。1900年とは、堅実な漸進主義に徹してきた金太郎が、いよいよその視野の先に世界という大舞台を捉えた年でもあったのだ。


1969

時計業界に“第一の革命”を巻き起こした「クオーツ アストロン 35SQ」。世界で初めて実用化された量産型クォーツ式腕時計であり、アナログクォーツ腕時計の祖である。それまで高精度とされる機械式腕時計でも日差数秒から数十秒が当たり前であった時代に、日差±0.2秒、月差±5秒という飛躍的な精度の向上を実現した。このファーストモデルは金無垢ケースを採用し、45万円と当時の自動車と同価格帯であった。

初代「クオーツ アストロン」が世界に与えた衝撃

 服部金太郎の没後より30年ほど経った1960年代、セイコーは次世代型の高精度腕時計開発を目指してスイスやアメリカといった時計生産先進国のメーカーとの開発競争に乗り出していた。そこで取り組んだのが、機械式時計の調速機であるテンプに替えて水晶振動子を採用することで、従来より約100倍の精度を持つクォーツ式腕時計の開発だ。1958年時点でセイコーが製造可能なクォーツ時計は、大型ロッカー並みの大きさのものであり、体積にして約30万分の1となる腕時計サイズへの小型化は想像を絶する挑戦であった。しかしセイコーは、これを将来の本命技術と定めて全力を注ぎ、東京オリンピックで公式計時を担当した1964年までには卓上サイズにまで小型化し、とうとう1969年、量産可能で実用的な腕時計として結実させた。世界の時計史に燦然と輝くこととなるこの腕時計に、セイコーは古代ギリシャ語で「星」を意味する名前を与え、同年12月25日、世界初の量産型クォーツ式腕時計「クオーツ アストロン 35SQ」として発売するに至った。

 セイコーはこれ以降、従来の機械式時計の自動組み立てラインをクォーツウォッチに転用し、アナログクォーツウォッチの量産とコストダウンを推進する。従来よりはるかに高精度な腕時計を万人が手にできるようになり、人々のニーズに伴って腕時計の主流は機械式からクォーツ式へと切り替わった。こうして当時の時計市場、そして世界の人々のライフスタイルは瞬時に一変したのだ。これがセイコーの巻き起こした“第一の革命”、すなわち“クォーツレボリューション”である。


<セイコー アストロン進化の系譜>
――GPSソーラーウォッチとは?

地球上のどこにいてもGPS衛星電波を捉え、“10万年に1秒”という圧倒的に高精度な時刻情報を表示すると同時に、簡単な操作で経度・緯度・高度情報を取得し、現在地のタイムゾーンに修正するのがGPS機能である。従来、多くのエネルギーを要していたGPS機能にソーラー発電機能を盛り込み、時刻修正に加えて電池交換の手間まで省いたGPSソーラーウォッチを世界で初めて完成させたのが「セイコー アストロン」だ。その進化はケースサイズの小型化に大きく表れており、その要となるのが受信アンテナの高性能化・省電力化、そして小型化である。2012年発表の初代7Xシリーズに搭載されていたのは直径38mmのリングアンテナ(左)。これが2014年の8Xシリーズでは直径35.5mmとなり(中左)、2018年の5Xシリーズでは10×10mmの小さなパッチアンテナとなった(中右)。2019年の3Xシリーズにおいてはアンテナ自体が受けと一体化され、さらなる小型化・薄型化を可能にしたのだ(右)。

2012 <7Xシリーズ>

セイコー アストロン ブライトチタンモデル
SAST003

“新生アストロン”の原点となる、2012年9月にリリースされた7Xシリーズのファーストモデル。6時位置に24時間制デュアルタイム表示、10時位置にパワーリザーブ表示を搭載。GPSソーラー(Cal.7X52)。セラミックベゼル×チタンケース(直径47mm、厚さ16.5mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。生産終了(発売時の税別価格19万円)。
7Xシリーズ搭載モデルの担当デザイナーに抜擢された鎌田淳一氏。「初めてキャリバー7Xを目にしたとき、こんなに小さなもので宇宙から来るGPS衛星の電波を受信できるのかと衝撃を受けたと同時に、新しい技術の先進性を表現しなければもったいないと高揚したことを覚えています」と当初の想いを語る。大きなケースを活かして鎌田氏が導入した“立体感”の要素は、以降すべてのセイコー アストロンのDNAとして受け継がれていくこととなる。

世界初のGPSソーラーウォッチ登場

「クオーツ アストロン 35SQ」の誕生から30年以上を経た2000年初頭。クォーツウォッチのコモディティ化を見届けたセイコーは、グローバル化、ボーダレス化の加速する時代を見据えて、新世代型腕時計の開発への機運を漲らせていた。それがGPSソーラーウォッチである。

鎌田淳一氏による「コンセプチュアルデザインモデル」のデッサン画。ケースの大きさ、厚さを活かすため、パーツひとつひとつの存在感が強調され、立体感が追求されている。都市名を含め、インデックス全体に蓄光塗料が施され、さらに都市名をダイアルリングの外側に配することで、カーブしたサファイアクリスタル風防を通して側面からも読み取れるようにデザインされている点にも注目。

 2006年、プロジェクトが本格始動。その開発には当時すでに独自のGPSモジュールを有しており、ハンディータイプのモバイルGPS端末の量産を成功させていたセイコーエプソンの協力を仰いだ。苦戦を強いられたのが受信アンテナの開発。既存のパッチ型アンテナが金属と干渉して受信感度を劣化させる性質のため、配置箇所を模索していた彼らは、やがてこれをセラミックス製のベゼルの内側に収める方法へとたどり着く。約5年後の2011年に直径38mmのリングアンテナを完成させ、新しいムーブメント、キャリバー7Xが誕生したのだ。

コンセプチュアルデザインモデル
SBXA033

コンセプチュアルデザインモデルの文字盤には地球の中心部から見上げた北半球が描かれている。通常の地図とは反転となるこの視点を用いたのは、地球の自転を時計回りに表現するための粋なはからいだ。ポリカーボネイト文字盤の白色の濃淡は、内部にあるソーラーパネルの配置を考慮しつつ、光の透過率が最適となるよう巧みに計算されたもの。GPSソーラー(Cal.7X52)。ステンレススティールケース(直径48.2mm、厚さ18.1mm)。10気圧防水。強化シリコンバンド。生産終了(発売時の税別価格22万5000円)。2014年2月発売。

 だが、新たな課題も生まれた。このキャリバー7Xを内蔵するケースは、実用品としての許容範囲の限界に迫る大径となる。またリングアンテナをベゼルの内側に埋め込むため、どうしても風防と文字盤の間隔が広く開いてしまうのだ。「装飾品としての腕時計の魅力を上げる」という課題を託されたのがデザイン部の鎌田淳一氏である。鎌田氏はこの制約を逆手に取り、通常の腕時計には発生しない風防と文字盤の隙間を立体的に活用することで、技術の先進性を表現する空間へと見事に昇華させた。それを最も大きく反映したのがインデックスである。「宇宙から降り注ぐ電波や光をイメージして逆アール型を採用した」というインデックスの立体感によって多層構造が強調され、文字盤全体にまるで小さな宇宙空間のような表情が生まれた。奇しくもこの“大きさ”と向き合ったゆえの産物は、アストロンのアイデンティティーとして、小型化していく後継機にも引き継がれていく。

(左)一部を肉抜きして軽量化し、存在感を出した時分針。  (右)見返しの上から被せるように配した逆アールのインデックスは、文字盤に向かって落ち込むように奥行きを持たせつつ、文字盤から浮かして視覚的なインパクトを高めている。

 いずれ世界の新たなスタンダードとなるだろう最先端テクノロジーと、斬新なデザインの融合。輝かしい「アストロン」の名を継承したまったく新しいこの腕時計は、2012年9月27日、“第二の革命”を起こすべく世界へと一斉に送り出された。

 7Xシリーズの立体感を存分に味わえるユニークなモデルが、ファーストモデルの1年半後に発表されたコンセプチュアルデザインモデル、愛称「ストラトス」だ。その名が示す通り、デザインモチーフは「成層圏」。前面全体を覆う巨大なドーム型風防が特徴だ。ポリカーボネイト文字盤には地球が描かれ、逆アール型のインデックスは宇宙に浮かぶ人工物の趣であり、さながら宇宙から地球を見下ろす世界観を持つ。ドーム型風防の素材は、単結晶で硬く、成形が困難なサファイアクリスタル。「1枚を仕上げるのにかかる時間は10時間以上。設計チームと折衝し、何度か頭を下げてお願いしました」と鎌田氏は笑う。扱いの難しい素材ながら、10気圧の防水性が当たり前にある点や、サファイアクリスタルの屈折を考慮して視認性が担保された点も特筆したい。ここにも大胆に取り組み、堅実に仕上げるセイコー品質を感じ取ることができる。

(左)大径ながら細い手首にもフィットするようケースは垂直型にし、またストラップはラグからほぼ垂直に落とされた。
(右)刮目に値するのが文字盤外周部の都市表示部。大きくカーブするサファイアクリスタル製風防は都市名を歪めずに表示するよう最適な屈折率が求められた。

2014/2015 <8Xシリーズ>

セイコー アストロン 8Xシリーズ 2014レギュラーモデル
SBXB003

省エネルギー化によりクロノグラフの搭載が可能となったキャリバー8X搭載の第2世代モデル。金属製インデックスの採用により質感も向上した。GPSソーラー(Cal.8X82)。セラミックベゼル×チタンケース(直径44.6mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。生産終了(発売時の税別価格24万円)。
セイコー アストロン 8Xシリーズ 2015レギュラーモデル
SBXB041

デュアルタイム機能搭載モデル。省エネルギー化により、6時位置のスモールダイアル内に12時間制のデュアルタイムの搭載が可能となった。GPSソーラー(Cal.8X53)。セラミックベゼル×チタンケース(直径45mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。生産終了(発売時の税別価格23万円)。
8Xシリーズ搭載モデル担当デザイナーの松本卓也氏。ビジネスパーソンがスーツを着るオンの日のみならず、オフのラフな休日スタイルで過ごす日にも映えるデザインを考案した。「開発の根底に、コンフォータブル(=快適さ)を重要な要素として置きました」と言う。

省エネルギー化と、大幅なダウンサイジングの達成で広がるバリエーション

 高機能時計らしい大ぶりのケースを備えた新生アストロンは、2014年の8Xシリーズで大幅に小型化することになる。ムーブメントの新開発によって、ウォッチヘッドの体積では約30%もの大幅なダウンサイジングが達成されたのだ。また受信性能、充電効率も向上。これによってクロノグラフなど新たな機能を盛り込み、文字盤もカラーバリエーションやインダイアルの装飾追加など、表情豊かに展開することが可能になった。しかし、それによって小型化しても大径時代の個性は維持せねばならないという、新たな課題も生まれた。

松本卓也氏による、ダイバーズウォッチの要素を取り込んだ限定モデルのデッサン画。リュウズガードやケースサイドと一体化したラグ、太い時分針やインデックスにより、実際のサイズ以上に大きな存在感がある。シリコンストラップを採用し、快適な着け心地にも意識が置かれた。

「略字が浮き上がって見えるデザインなど“立体感”が7Xシリーズで好評だったため、これを踏襲し、量感をたっぷりと表現できるデザインを意識しました」と話すのは、8Xシリーズ搭載モデル担当デザイナーの松本卓也氏だ。松本氏はユーザー層の広がりを意識し、キーワードに“オフシーンにも似合う”テイストを盛り込む方向性を打ち出した。「開発スタートの段階はスーツに似合い、ビジネスシーンで映えるグローバリスト向けの腕時計がコンセプトでした。新たに彼らの休日を想定し、昼は海辺やドライブ、夜はバーといったシーンにも合うよう、質感を上げ、スポーツテイストを盛り込みました」。

セイコー アストロン 2014限定モデル
SBXB001

クロノグラフ機能を搭載したセイコー アストロン初の白文字盤モデル。充電効率の向上により、従来に比べて光の透過率が約50%の文字盤を採用することが可能になり、反射率の高い白文字盤が実現した。GPSソーラー(Cal.8X82)。セラミックベゼル×チタンケース(直径45.0mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。世界限定7000本。生産終了(発売時の税別価格30万円)。

 8Xシリーズの進化を最も象徴するのがSBXB001だろう。着目すべきが白文字盤だ。ソーラー充電機能が向上したことで光の透過率を従来の約半分まで下げることができ、これにより内部のソーラーパネルが透けないように文字盤の色の濃度を上げられたため、白単色を採用できるようになったのだ。リュウズガードや金属製インデックスと相まって、ラグジュアリースポーツウォッチ然たる佇まいを得るに至った要因と言える。ルミブライトのボリュームが格段に上がった時分針も、省電力化によりトルクを上げられたキャリバー8X系の産物である。

(左)充電効率の向上と省電力化により、肉抜きなしのルミブライト入りという従来より重い針が採用できるようになった。またメタリックなインダイアルフレームの採用も可能となった。  (右)光沢ある金属製インデックスに多面カットを施し、高級感と立体感を両立。

 7Xシリーズの築いたアイデンティティーを強化しつつ、より広いユーザー層に新生アストロンを届けられる起点となったのがこの8Xシリーズなのだ。

(左)ケースはザラツ研磨仕上げによる曲面や、セイコー独自の硬化処理ダイヤシールドが取り入れられている。
(右)SBXB001の12面カットのセラミックベゼルは真横から見ても都市名が判別でき、世界のどこにいても瞬時にその地の時刻を表示できることを主張する。

2018 <5Xシリーズ>

セイコー アストロン 5Xシリーズ デュアルタイム
SBXC003

5Xシリーズのファーストモデル。GPS衛星の電波受信を1日最大2回実行するスーパースマートセンサーや、2カ国の時間を瞬時に切り替えられるタイムトランスファー機能、自動的にサマータイムを修正する機能などを搭載し、さらに高性能化されている。GPSソーラー(Cal. 5X53)。セラミックベゼル×チタンケース(直径42.9mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。2018年11月発売。
5Xシリーズ搭載モデル担当デザイナーの川村公則氏。「昨今のSDGsの流れを意識して、日常的にも使いやすく、サステナブルな腕時計になることを目指しました」とそのデザインポイントを語る。デザインで選ばれるフェーズに突入した新生アストロンを担う。

“普通の腕時計”へと進化を遂げたさらなる飛躍

“10万年に1秒しか狂わないGPS衛星搭載の原子時計の精度を取り込むGPSソーラーウォッチを当たり前の存在にする”というセイコーの自負を今一度強く印象付けたのが、一層の小型化を果たした第3世代の5Xシリーズだ。そのファーストモデルのケースサイズは直径42.9mm、厚さ12.2mmと、限りなく一般的な腕時計の大きさになったと言える。セイコーは小型化に結び付けられる要素を徹底的に追求。GPSモジュールは8Xシリーズに対しておよそ半分まで低消費電力化し、さらにICの受信性能が向上したことから、受信アンテナは大きなリング状である必要もなくなり、わずか1cm四方のパッチアンテナに激変させた。GPS衛星からの電波と波長を共振させる超精密なアンテナの小型化がいかに難しいかは察するに余りあるが、8Xシリーズから4年もの歳月を重ねて刷新したことに明確な使命感がうかがえる。

川村公則氏によるセイコーウオッチサロン限定モデルのレンダリング。先進的な技術力の表現に特化した7Xと8Xシリーズに対して、丸みを帯びたパーツを多用し高級感を表現。時分針にチタンを採用し、軽量化と質感アップを可能にした。独自性ある裏蓋は、中央部に設けられたくぼみが軽快な装着感を実現。

 5Xシリーズのデザインを担当した川村公則氏はSBXC063を指しながらこう話す。「ビジネスマン向けに展開してきた新生アストロンを、5Xからはラフな服装でも使えるように意識しました。このモデルはジーンズに白のTシャツで空港へ向かう人をイメージしています」。

セイコー アストロン グローバルライン スポーツ 5X チタン
SBXC063

ベゼルまでチタンで作られたセイコー アストロン初のオールチタンモデル。初代アストロンのシルエットを踏襲したケース形状に注目。軽量性、防水性に優れる。GPSソーラー(Cal.5X53)。チタンケース(直径42.8mm、厚さ14.7mm)。20気圧防水。チタンブレスレット。

 そうした印象を醸し出すのは、8Xシリーズの白文字盤よりもさらに明るいシルバーダイアルだ。光沢あるインデックスも質感が高くのびやかである。「通常は文字盤と水平にあるインデックスを、立体感を出すためにあえて斜めに配しています。これほど小さいものを斜めに据えるのは見た目以上にコントロールが難しいのです」。リングアンテナが廃され、もはや文字盤と風防の隙間も通常の腕時計と変わりはなくなった。それに代わって、腕時計の普遍的な美しさと“大径だった時代”に確立されたセイコー アストロンのアイデンティティーを両立させる新たな挑戦がデザイナーに課せられた。なお、クッション型ケースやワンアールのケースサイドなどのアウトラインは1969年発売の初代アストロンから踏襲されたものだ。「5Xシリーズを進めるうちに、かつてのアストロンらしさを改めて訴求していこうという流れになりました」。いよいよセイコー アストロンは、普遍的な腕時計のデザインで選ばれる“普通の腕時計”へと進化を遂げ、次なるステージへと飛躍しようとしているのだ。

(左)従来と同じポリカーボネイト製ながら、いっそう質感を高めた文字盤。省電力化の向上で、より反射率が高い高明度な色の文字盤を採用できるようになった。
(右)わずかに傾斜をつけて取り付けられた金属製のインデックスは質感が高い。なお、12時位置のこの真下にパッチアンテナが搭載される。川村公則氏曰く「12時位置のインデックスはアンテナに干渉しないように、全体のバランスを見ながらぎりぎりの長さで設定」。
(左)腕なじみを良くするワンアールのケースサイドとラグの構成は、1969年発売の初代アストロンのシルエットを踏襲する。
(右)リングアンテナを廃したことでベゼルの素材に制約がなくなり、チタン製ベゼルが採用された。外装は鏡面と筋目仕上げのコントラストが秀逸だ。

2019 <3Xシリーズ>

セイコー アストロン 3Xシリーズ レディスコレクション
STXD002

世界最小のGPSムーブメントを内蔵するセイコー アストロン初のレディスコレクション。2012年の7Xシリーズと比較すると、消費電力は約4分の1に抑えられ、受信性能は1.5倍に向上している。GPSソーラー(Cal.3X22)。セラミックベゼル×ステンレススティールケース(縦45.2×横39.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。クロコダイルストラップ。2019年11月発売。
3Xシリーズのデザインを手掛けた郡山奏子氏。初代アストロンのデザインに女性らしさを融合させた。「タイムゾーン修正のために4時位置のボタンを押す以外、リュウズを触る必要が一切ありません。GPSウォッチを気軽に、より多くの人に使ってもらいたい」と語る。

 2012年から進化を遂げてきた新生アストロンの現時点での最新ムーブメントがキャリバー3X系である。とうとうケース外径は40mmを下回るに至った。ここまで小さくできた理由。それは受信アンテナがもはやアンテナの形ですらなくなったことにある。1枚の板に分散されたアンテナは、プレート状へと姿を変えたのだ。

郡山奏子氏による3Xシリーズのデザイン画。日付表示のフレームや針先など、細部にまで柔らかい曲線の要素が盛り込まれている。

「初めてのレディスコレクションとして社会で活躍する女性が日常使いできるモデルをコンセプトにデザインしています。これまでのセイコー アストロンを男性用としていたわけではありません。ただ、機能が多く、デザインが男性的だったことから今回あえて女性用と銘打つことで、より変化と広がりを訴求できると考えました」と説明するのは3Xシリーズのデザインを担当した郡山奏子氏だ。搭載される機能は、3針カレンダーのみ。これまでの多機能ウォッチと比較すると、潔いほどのシンプルさだ。「多機能ウォッチは使い方が難しいという女性の声を反映しました」。機能をそぎ落とすことで、約6カ月間のパワーリザーブなど、従来と変わらぬパフォーマンスを維持しながらも小型化に成功している。

3Xシリーズ レディスコレクション
STXD009

2020年12月、セイコー アストロンのレディスコレクションに追加されたメタルブレスレットモデル。GPSソーラー(Cal.3X22)。セラミックベゼル×ステンレススティールケース(縦45.2mm×横39.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。ステンレススティールブレスレット。

 ボーイズサイズに相当する大きさではあるが、腕に載せるとそのコンパクトさが際立つ。「セラミックベゼルの形を横楕円にすることで、縦方向を絞り込むと同時にデザインに柔らかさを出しています。この曲線を強調し、モデルに柔らかさを出す手法は、よく化粧品や香水に採用される手法で、サイズ感とデザイン性を両立させるため、3Dプリンターで何度も試行錯誤を重ねました」。ケース形状は、5Xシリーズに引き続き1969年発売の初代アストロンのシルエットを踏襲した。なだらかな曲線により腕なじみが良い。

 注目すべきは白蝶貝ダイアルだ。ダイアル下のソーラーパネルに影響しないように加工された白蝶貝文字盤にニュアンスを与え、インデックスにあしらわれたダイヤモンドを引き立てる。そのエレガントな佇まいに、2012年から脈々と続く超高精度なGPS機能が宿っていることをいささか忘れそうになるほどだ。

(左)ひとつとして同じ模様がない白蝶貝ダイアル。横楕円のベゼルとバランスの良い丸みを帯びた時分針を採用。
(右)インデックスには14個のダイヤモンドが採用される。

 初代アストロン誕生からちょうど50年の節目に発表された3Xシリーズ。半世紀の時を経て、高精度を超えた超高精度の腕時計は、誰もが当たり前に使える“普通の腕時計”の新たな選択肢として、大きな可能性を秘めている。

(左)初代アストロンを継承したケースサイドとラグ。2時位置は強制時刻修正ボタン、4時位置はタイムゾーン修正ボタン。
(右)7列のステンレススティールブレスレットは簡易着脱レバー式のため、工具を用いずに別売りのレザーストラップに交換できる。ブレスレットの表面にはプラチナダイヤシールド加工が施される。

2020 <5X/3Xシリーズ>

スタイリッシュなファッションやアクティブなシーンにも映える5XシリーズのシルバーダイアルモデルSBXC047(左)と、3Xシリーズの白蝶貝ダイアルモデルSTXD002(右)。高明度な文字盤は、アストロンの進化の証しである。

セイコー アストロン最新モデルカタログ

 2021年に創業140周年を迎えたセイコー。確かに最新技術で世界を驚かし続けた進取の気象は特筆すべきだが、それだけでは長い歴史は築けない。創業者が「精巧な時計を作る」ことを決意し、会社を興した時の想いがその礎となり、今なお息づいているからだ。

落ち着いたダイアルカラーのシックな2本。文字盤の装飾性の高さを見比べて堪能したい。3XシリーズSTXD007(上)のダイアルには放射状のヘリンボーンストライプパターンが、5XシリーズSBXC069(下)のダイアルにはアスファルトパターンが施されている。

 例えば、ここで紹介するアストロンの現行モデルにはすべてセイコー独自の表面硬化処理「ダイヤシールド」が施されている。こうした目に見えぬ部分は短期間での評価にはつながりにくいが、彼らはこの技術を追求し続けており、近年もまた一段と硬度を高めてきた。精良な商品の真価は、長く使ってこそ分かるものだ。高品質を日常において当たり前に享受できる喜びをぜひ味わっていただきたい。

 今や“究極の普通の腕時計”へと進化を遂げた新生アストロン。カラーバリエーションや装飾性もいっそう豊かになった点にも要注目だ。

クオーツ アストロン グローバルライン スポーツ レギュラーモデル
SBXC065

20気圧の防水性能を確保し、安心して日常使いができるスポーティーで清爽な印象のオールチタンモデル。103gと軽量で、使いやすさは抜群。GPSソーラー(Cal.5X53)。チタンケース(縦50.3×横42.8mm、厚さ14.7mm)。20気圧防水。チタンブレスレット。
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コアショップ専用モデル セイコーアストロン グローバルライン ダークグリーンダイヤル
SBXC079

人気上昇中のグリーンカラーとブラックの組み合わせ。星雲をモチーフとし、文字盤にはラメを塗布。ベゼルとインダイアルフレームにもグリーンを採用。GPSソーラー(Cal.5X53)。セラミックベゼル×ステンレススティールケース(縦49.9×横42.7mm、厚さ13.5mm)。10気圧防水。ステンレススティールブレスレット。
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セイコーウオッチサロン専用モデル セイコーアストロン レボリューションライン
SBXC088

ストライプ模様のエンボス加工を施したブルーダイアルと、ダイヤシールド加工のローズゴールドカラーが華やかで人目を引く組み合わせ。GPSソーラー(Cal.5X53)。セラミックベゼル×チタンケース(縦51.9×横45.3mm、厚さ13.1mm)。10気圧防水。チタンブレスレット。
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コアショップ専用モデル セイコーアストロン レディスコレクション
STXD011

白蝶貝ダイアルとホワイトセラミックベゼルに、シルバー&ローズゴールドカラーのブレスレットを合わせたレディスコレクションの新作。GPSソーラー(Cal.3X22)。セラミックベゼル×ステンレススティールケース(縦45.2×横39.8mm、厚さ12.9mm)。10気圧防水。ステンレススティールブレスレット。
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