vol.3
Trip to
text by TRANSIT photo by HIDEAKI HAMADA
発展に沸く海辺の街、ダナンへ。
ベトナムの古都・フエへの取材の前に立ち寄ったのは「ベトナムで最もアツいリゾート地!」だというダナン。そのまま夜行列車に乗る手もあったけれど、列車を次の日にずらして、少しのんびりしようと計画したのだ。空港からタクシーに乗り込むと、5分もせずに賑やかなネオン街が見えてきた。街中はどこもかしこも工事中だ。ここにもあそこにも、大きなビルが建つのだろうか。メイン通りを歩いて食事を済ませ、散歩をしながらそのままビーチ近くのホテルへ向かう。
翌朝、ホテルから歩いてビーチへ繰り出す。波の少ない穏やかな海、人もまばらな真っ白なビーチ、古い屋内マーケットで和やかに買い物する人びと。この街は建設ラッシュのあとに、一体どんな光景になるのだろうか。緩やかな時が流れる海の街に、観光客が押し寄せる姿を想像してみる。この時間を自分だけのものにしておきたい、そんな欲張りな気持ちも感じる。市場でマンゴーとランブータンをたっぷりと買い込み、手元の<Seiko Astron>に目をやる。もう列車の時刻が迫っていた。慌てて駅へと駆け出す。
古都の面影が色濃く残る、フエにて。
電車で山を越えると、待ち受けていたのは晴れやかな青空だった。ここフエは最後の王朝・阮朝が置かれた街だ。一日では足りないくらい、多くの歴史的建築物が残されている。街の中心に堂々と鎮座する王宮門や、街のはずれに点在する歴代皇帝たちの霊廟。どの遺跡も少しずつ復元が進められている。古くから城下町として庶民が暮らす旧市街も、碁盤の目状の街並みが維持され、かつての都の姿を探すのに時間はかからない。古いものが残る街を歩くと、ふと、昔と同じ風景と出会ことも多い。
ベトナムの新しいリゾート地として発展するダナンと、それとは反対に昔の姿を求めて復元と建設が進むフエ。時折、未来と過去にタイムスリップしたような感覚に陥りながらベトナムの街を歩く。そんな時空旅行を楽しむ僕の腕では、働きものの<Seiko Astron>がきちんと時を刻み、僕の好きなときに現実世界へと引き戻してくれる。夕暮れ時のフオン川を眺め、ベトナムの現在、過去、未来に思いをめぐらす。18:29。そろそろホテルへ戻ろうか。