vol.1
Trip to
text by TRANSIT photo by MAI KISE
緑豊かな森の街・ポートランドへ
取材でカリフォルニア入りする前に、友人ジュリーを訪ねてオレゴン州ポートランドに立ち寄った。もともとニューヨークで生まれ育った彼女は、この街に拠点を移して3年になる。ニューヨークで写真を学んでいた学生時代に知り合った仲で、彼女がこの小さな街へ拠点を移してフォトグラファーをやっていくと聞いたときは、なんでまた大都会から田舎へ行くんだとびっくりしていた。彼女曰く、ポートランドの魅力は「小さい街だからみんな顔見知りになれるのがいいのよ。私にはニューヨークは大きすぎたわ」という。
彼女がおすすめしてくれたForest Park、Coava Coffeeも、どれも観光名所のような派手さはなくて、地元の人が通いつけの場所ばかり。それでも彼女と一緒に街を歩くうちに、豊かな日常が揺るぎなくそこに横たわっているのが伝わってきて、ポートランドでの彼女の暮らしぶりが羨ましくなってしまった。「また遊びにきてね。なんだったらあなたも移住したら? いつでも歓迎するわ」。彼女の笑顔に手を振って、ポートランドを後にした。
海の街・サンフランシスコへ
ポートランドを離れて、車でカリフォルニアを目指す。目的地のサンフランシスコに近づくほどに車が増えてきて、見事にベイエリアの名高い大渋滞にはまる。微動だにしない僕の車の脇を、電気自動車が揚々とカープールレーンを走り抜けていく。その様子を見ていると、IT企業がひしめく最先端都市に向かっているんだと気分が高揚してくる。
そんな僕の期待に反して、サンフランシスコに到着してみて驚いたのは、街と自然との近さだった。街中には街路樹や公園があって緑が多く、港も開かれていて街から海へとすぐアクセスできる。朝からファーマーズマーケットが開いていて、サンフランシスコ近郊で採れたばかりの有機野菜がずらりと並び、評判のレストランのシェフや地元の人びとが農家の人から直接食材を購入していく。この街に生きる人を取材しながら、気づけば朝は早く目が覚めて、夜も早くに眠りについて……そんな人間らしい生活を送り、僕の腕ではちょっと誇らしそうに<Seiko Astron>が規則正しくリズムを刻んでいた。