目まぐるしく変化し、前進し続ける都市、東京。その姿を高層ビルの上から眺めると、どこまでも続く街並みに圧倒されてしまう。都市は変化するが、そこに流れる時間には変わらない価値がある……。俳優でありロースターでもある坂口憲二が、建築家の重松象平と共に、“都市と時間”、“建築と腕時計”について考えた。
大都市・東京はどこへ向かうのか?
坂口:今、新宿の高層ビルにあるペントハウスにお邪魔していますが、ここから見える景色は、数年前とはずいぶん違っています。重松さんはニューヨークに暮らし、世界中の都市で仕事をしていますが、東京の街をどう見ていますか?
重松:目に見える都市の新陳代謝という観点では、東京のスピードはすごく早い。なぜかというと日本では既存の建物を残して使うのではなく、壊して新しくしようと考える傾向が強いからです。その背景には耐用年数が短い木造建築が多いことや、地震や災害で建物が壊れやすい状況下にあるということが起因しています。だから壊して建て直すことに対して、歴史的にそれほど抵抗がないのだと思いますし、新しいということが古くて歴史があるものよりも好まれるのです。
坂口:たしかに東京には新しい高層ビルが増えました。しかし中に入ってしまうと、どこも同じような印象を受けるのはなぜなのでしょう?
重松:幕の内弁当を想像してください。建築家が担当するのは弁当の箱、つまりはハードだけ。中身はデベロッパーなどが決めていて、似たようなごはんやおかずを入れ込んでいる。だからどれだけ建築家が頑張ってデザインで差異化しても、建物の中に入ってしまうとどこも同じような体験になってしまう。本来は、建築家や他のスペシャリストも中身を考えることに参加して、都市の多様化を意識すべきなんです。
坂口:重松さんが建築デザインを担当した「虎ノ門ヒルズステーションタワー」が話題になっています。写真などを拝見しましたが、最上階にスカイガーデンやインフィニティプールがあるんですね。こういう高層ビルは見たことないです。
重松:高層ビルは限られた土地の中で、いかにして床面積を増やしていくかという考えから生まれたもの。しかし高層化するためには、エレベーターや空調などの機械を収めた機械室を最上階に設けなければいけません。本来は使う人のために作られた高層ビルなのに、景色の良い最上階は機械室。それだと人のためって感じがしないじゃないですか。人々が楽しめるように最上階を開放するのは、高層ビルが本来あるべき姿だと思います。インフィニティプールは目の前が霞が関で将来的に超高層ビルが建って視界が遮られる可能性が少ない立地なので、皇居や関東平野の景色を切り取るようにデザインしました。
坂口:東京には、もはやスペースを横に広げていく余地はない。だから上下に広げていくしかないんですね。僕は東京生まれ東京育ちで、漠然とですが都市の変化を見てきました。先日久しぶりに渋谷駅に降りたったら景色が全く違って驚きました。学生時代に同級生と待ち合わせした場所とか、当時デートした小道もなくなっていて寂しかったですね。
重松:確かに渋谷駅周辺は、劇的に変化しましたよね。東京という都市は広大で、よく使うエリア以外の変化はあまり見えてこないし、都市を消費できない感じもある。しかしその多様さが魅力ですし、常に新鮮味がある。それが東京のいいところなので保存していきたいですね。
坂口さんが着用するのは、セイコー プロスペックス メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ「SBDC197」。「機能を形にしたシンプルなデザインが好み。モノトーンの配色なので、さまざまなスタイルに合わせやすそうです」(坂口)製品の詳細はこちら ≫
重松さんが着用するのはセイコー プロスペックス メカニカルダイバーズ 1968 ヘリテージ GMT「SBEJ009」。「普段はジャケットにデニムみたいなスタイルが多いのですが、ビジネスシーンにも使えそうですし、アクティブな休日にも似合いそう」(重松)製品の詳細はこちら ≫
大都会を見下ろしながら撮影。同世代ということもあり、話題は尽きない。
坂口憲二(さかぐち・けんじ):1975年東京都出身。モデル、俳優を経て、2018年にコーヒーブランド「The Rising Sun Coffee」を立ち上げる。現在は千葉、東京、神奈川に店舗を構え、2024年4月には、「The Rising Sun Coffee」の姉妹店「花ぎんかく」を京都にオープンさせた。またコーヒー豆の販売や卸し、グッズ製作など幅広くビジネスを展開中。昨年から俳優の仕事を再始動、ドラマやCMでも活躍。
重松象平(しげまつ・しょうへい):1973年生まれ。九州大学工学部建築学科卒業後、1998年より世界的設計事務所「OMA」に所属。2008年にパートナー就任。ニューヨーク事務所代表も務める。ハーバード大学GSD, コロンビア大学GSAPPなどで客員教授を歴任。2021年より九州大学人間環境学研究院教授およびBeCAT(Built Environment Center with Art & Technology)ディレクターを務める。2023毎日デザイン賞受賞。代表作に「ティファニーのニューヨーク五番街旗艦店」「虎ノ門ヒルズステーションタワー」など。
変化する都市、変化する腕時計
坂口:例えば象徴的な建物は、人々の思い出と繋がっている。老朽化や耐震などの問題もあるので、何でも残すことが正解ではないのでしょうけど、街のランドマークがなくなってしまうのは寂しいですよね。
重松:明治時代やそれ以前につくられた歴史ある建物だったら、誰もが残そうと思いますよね。でも戦後の建物に対しては、かなりドライなんです。だから今建っている建物やつくられている建物はいつまで残っているのかわかりません。しかし西新宿副都心のビル群は開発が始まって約50年を迎えますが、建物を壊すことなく、ビルの足元を改善して上手に進化できている。デジタルの世界では、サービスも考え方も一気に変化しますよね。でも都市というのは時間をかけてゆっくり出来上がっていくのが理想ですし、そもそも街は社会的状況、土地所有や法規的なことなどが複雑に絡み合っているの、でゆっくりとしか進まない。でもそれでよいのです。
坂口:機械式時計にも似ていますね。機械式時計はゆっくり進化して、ここまでたどり着いた。もちろんその間に携帯電話やスマートフォンの登場もありましたが、ぶれずにゆっくり進化してきた。それが価値や魅力に繋がるってこともあるのでしょうか?
重松:あると思います。僕が今回着用している「1968 ヘリテージ GMT」は、1968年に生まれたダイバーズウオッチからインスピレーションを受けたものですよね。プロフェッショナルなダイバーのために専門的に作られたものですが、ゆっくりと進化を遂げた結果、むしろダイバー以外から愛されているというのは、おもしろい現象です。僕はずっとバスケットボールをやっていたのですが、バッシュ(バスケットシューズ)と同じ現象ですね。競技のために生まれた機能的なスニーカーなのに、今ではみんなが街中で履いている。
坂口:その機能やデザインは、実生活には特に必要ないのですが、むしろそこに惹かれてしまうんですよね。僕が着用している「1965 ヘリテージ」は、防水性能が300mもある。もちろんそこまで潜りませんが、歴史の中でゆっくり磨かれてきた機能には抗えない魅力がありますよね。そういえば重松さんは、以前から「セイコー プロスペックス」を愛用しているそうですね。
重松:父もセイコーのファンで、子どものころから、腕時計といえばセイコー。日本の製品は海外でもリスペクトされています。ただ、欧州のブランドはいかに歴史が古いか、いかに手がかかっているのかを、徹底的に語りますよね。日本のブランドは、そういう部分でまだまだ頑張れる余地があるとも思います。
坂口:確かにそういうところはありますね。僕も「ライジングサンコーヒー」というコーヒーブランドを立ち上げており、将来的には海外にも広げたいという思いはあります。ただマーケティング戦略は、どうしても商業的な匂いがしてちょっと苦手(笑)。でも適切なコミュニケーションを行い、製品の魅力を伝えるというのは大切なことですよね。
時計も建築も
長く愛情を注げるものだけが
残っていく
重松:そういえば坂口さんが、本格的に俳優のお仕事を再開されるそうですね。ニュースで知って驚きました。
坂口:自分のなかでも、このまま俳優に復帰せず終わってしまうのは嫌だなっていう気持ちもありました。体調面の不安もありますし、かなり悩みましたが、やらないで後悔するくらいなら、もう一度チャレンジして後悔したいという気持ちが強くなった。俳優の仕事はオファーがなければ始まらないわけですから、逆に出て欲しいと言ってくれる人がいる限りは頑張りたい。選択肢があったら、より難しい道を選ぶというのが僕の価値観なんです。
重松:建築家の仕事も俳優と似ているかもしれないですね。建築家も必ず施主がいて、頼まれなければ仕事が発生しない。だから僕が大切な価値観にしているのは、オープンであること。色々な国で仕事をしますが、政治的な仕組みも人権に対する考え方も違うので、一元的な考え方では対応できない。だからこそオープンな気持ちでプロジェクトに臨み、多様性を受け入れる。それが自分の価値観ですね。俳優にあたり役があるように、自分のスタイルを貫き通せる建築家もいます。でも僕は立地もクライアントも状況も違う中で、自分の作風を敢えて貫き通すタイプではない。それは多様な環境でキャリアを積んで、色々なタイプの建築をデザインしてきて気付いたことですね。
坂口:それが年齢と経験を重ねることの意義ですよね。僕も若い頃は視野が狭くなってしまい、すべてのシーンに対して全力で臨んでいましたが、今は緩急をちょっとはつけられるようになれたかな。
重松:先ほど建築と腕時計は、どちらもゆっくり成長してきたという話がありましたよね。建築と腕時計って、それ以外も似ているなぁってよく思うんです。建築はエレベーターや空調など、さまざまな部品の集合体です。それをひとつにまとめ、さらにデザイン性も高める。それは腕時計と同じですよね。
今回着用した「1968 ヘリテージ GMT」も小さな部品の集合体であり、それらをデザインや機能、着用感など考慮してまとめることでつくり上げられたものですから。
坂口:しかもこのモデルはGMT機能も付いているので、世界中で仕事している重松さんには便利な機能じゃないですか?
重松:世界中を移動しているので、滞在する現地時刻ではなく、拠点のニューヨークの時間を常に意識して過ごすようにしています。だからGMT針でニューヨーク時間が常にわかるというのは便利ですね。かつては他国に行くたびに時差を修正するのが通過儀礼でしたが、僕は最近いろいろな国をホッピングし過ぎてしまっているので、そういう感覚が薄れているのかもしれません。しかしこうやって実際に針を動かすことで、時間に対する意識が変わる感覚はあります。
坂口:自分の手から始まるって、どこかロマンがありますよね。
重松:しかも代々使い続けられる。この「プロスペックス」のように、昔からの伝統を継承しているものには魅力がありますよね。数百年という単位で長く使われている建築って、使う側も建物をすごく大事にしている。いくら素晴らしい建築も、大切に使いたいと思えるだけの中身が伴っていなければだめなんです。
坂口:僕も父から受け継いだ時計は、何十年も昔のものだけど、やっぱり大切なものとして残っている。
重松:建築も腕時計と同じように、受け継いでいくことが価値となる社会になって欲しいですね。
坂口:腕時計も建築も、長く愛情を注げるものだけが残っていくのでしょうね。
ーー変化する時代の中で、変わらないであり続けることは難しい。しかしゆっくりと時代の変化に合わせながら、皆に愛されながら歩んできたものには、タイムレスな価値が宿るのだ。
夜の帳がおり、街の灯がともる。昼と夜とで違った表情を見せるのも大都市・東京の魅力である。
本記事で紹介したモデル
<セイコー プロスペックス メカニカルダイバーズ 1968 ヘリテージ GMT >
<セイコー プロスペックス
メカニカルダイバーズ 1965
ヘリテージ>
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SBDC195
176,000円(税込)
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SBDC197
176,000円(税込)
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SBDC199
203,500円(税込)
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