自分の価値観に従い、今という時間を生きる。そんな男に人は憧れる。コーヒーの焙煎士であり、俳優としても再始動した坂口憲二は、自分の信念に従い、自分が選んだ道を進んできた。そんな彼の生きざまを写真という形で表現するのが、今、日本で男をカッコよく撮るフォトグラファー、HIRO KIMURA。両者によるセッションは、現代を生きる男たちの道標となるだろう。
目には見えない挫折が、
その人の色気となる
ーーHIRO KIMURA(以下HIRO)がライフワークとしているポートレート写真集「HERO」を見つめる坂口。日本を代表する男性を撮り下ろした、モノクロのポートレートの迫力に圧倒されている。
坂口:すごくカッコいい作品ですね。
HIRO:ありがとうございます。その人の姿形ではなく、どう生きてきたのかを写したかった。相手は“この顔を撮って欲しい”という気持ちでやってきますが、それだったら僕が撮らなくてもいい。カメラを通じて対峙すると、その方が背負っている十字架が見えてくる。成功している方は誰しも挑戦や努力を行い、そして挫折から立ち上がってきている。そういった『背負っているものを感じること』を大切にしています。坂口さんも、多くの挫折を経て今がある。そこを映したい。
ポートレート写真集「HERO」
坂口:挫折はたくさんしましたね。僕はモデルとして芸能の世界に入り、何の下地もないまま俳優の仕事をするようになった。だから恥ずかしいことも、悔しいこともたくさん経験しました。初めて自分が主役をやらせてもらったドラマは、視聴率が悪くて打ち切りになったし、とにかく自分に自信を持てなかった。でもそういう思いを打ち壊してくれたのはサーフィンだった。波の上では、自分の力だけじゃどうにもならない。そういう現実を受け止めたうえで、きちんと準備をしていくことが大事なんだと理解するようになった。だから自分に嘘をつかないし、迷ったらあえて大変な道を選ぶ。それが結果として、自分にとっては正しいことなのです。
HIRO:嘘をつかないこと。非常にわかります。僕の仕事は、短い時間の中で相手に自分を信じてもらうしかない。しかもその人生を撮るわけですから、何事も斜めに構えずに、まっすぐに相手と対峙することが鉄則です。坂口さんもまっすぐに相手に向き合い、嘘をつかずにコミュニケーションを取ることで自分の思いを伝えていこうとしている。坂口さんから感じる柔らかさや優しさ、いい意味での抜け感というのは、表層的ではない。非常に厳しくご自分を律してきたという印象があります。そういった部分を撮影の中で写し出せれば、これほど嬉しいことはありません。
坂口:不器用だからかな(笑)。でもパーフェクトな人間じゃないからこそ、まわりの皆さんを頼ったり、逆に頼られたりと良い関係ができるのかもしれない。
HIRO:たくさん挫折をすることは、それだけ多くの経験を積むということであり、それが色気になるのだと思う。そもそも挫折はチャレンジからしか生まれてこないわけであって、その経験が多ければ多いほど、その人にはセクシーな色気が出てくる。それを写したいという気持ちが、僕にポートレートの撮影をずっと続けさせる理由なのでしょう。
坂口 憲二(さかぐち・けんじ):
1975年東京都出身。モデル、俳優を経て、2018年にコーヒーブランド「The Rising Sun Coffee」を立ち上げる。現在は千葉、東京、神奈川に店舗を構え、またコーヒー豆の販売や卸し、グッズ製作など幅広くビジネスを展開中。昨年から俳優の仕事を再始動し、ドラマやCMへの出演を増やしている。
HIRO KIMURA(ひろ・きむら):
1977年生まれ。スタイリストとしてキャリアをスタート。雑誌や広告、東京コレクション等のスタイリングを担当。2008年にフォトグラファーへ転向し、操上和美氏に師事。現在はスチールだけでなくムービーディレクターとしても活躍。
ポートレート写真集「HERO」
自然の前では、人は嘘をつけない
坂口:しかしHIROさんだって、色々なチャレンジをしてきたんじゃないですか?
元々スタイリストをされていて、30歳でフォトグラファーへ転身したというのはかなり珍しいキャリアですよね。
HIRO:20代のころは自分のことを冷静に判断できず、あふれ出るパッションやエネルギーをどうさばいていいのかわからなかった。スタイリストとしての仕事は順調で、目標にしていた方とも仕事ができました。でも30歳を前にして、もう一度チャレンジしていかないと駄目だと思った。それでフォトグラファーとして一から出直しました。同じ場にとどまらず、先を見てチャレンジし続けることが、僕の価値観なんです。でも坂口さんもそういう意味では、コーヒー焙煎士として、そして再び俳優としてチャレンジを重ねているじゃないですか。
坂口:そもそも芸能の仕事がなくなったとしても自分の人生は続いていくわけですから、セカンドキャリアをどう楽しめるかを若いころから意識していました。コーヒーに出会えたことは幸運でしたし、自分で1から10までやってみたいと思っていたので、ブランドを立ち上げ、自分なりの考えを表現できたのは嬉しいことです。病気になったときは辛かった。でも周りのみんなに助けてもらった。それが無かったら、ずっと変われずにいたかもしれない。人生っていろんな意味で、ピンチはチャンスでもある。落ち込むことがあっても、気持ちだけは前向きに考えて動いていけばいい。
HIRO:十数年前からサーフィンが趣味で、坂口さんのサーファーとしての活動を憧れの目でずっと追いかけてきました。前向きにサーフィンを楽しむ姿勢も、昔も今も全然変わらないですよね。
坂口:サーフィンは自然が相手なので、人間的な価値や立場、名声があっても、波には乗れない。波に乗るためには、海に入って経験を積んでいくしか方法はないし、毎日頑張っている人だけが上達できる。僕がサーフィンを始めたのはハワイでしたが、最初は溺れかけて、恐怖しかなかった。でも何度も海に通って何度も練習しているうちに、ある時10mくらいの距離でしたが小さな波に乗れた。あの感覚は今でもはっきりと覚えていますね。サーフィンは30年近くやっていますが、今でもあの時の感覚を追い求めているのかもしれません。
HIRO:続けることは大切ですよね。僕の仕事柄、強烈な個性を持った方たちと対峙することが多い。まだまだ40代の自分が、ただ撮るだけでなく、きちんと相手の心の内側に入り込んで撮るというセッションを行うのは疲弊することでもある。そういう時こそサーフィンで、エネルギーを補給するんです。海に向かう時間は、仕事のアイデアが浮かぶ時間でもありますし、メンタル面でも自分のクリエイティビティを研ぎ澄ましてくれる場所のひとつになっています。
坂口:あー気持ち良かったな。って空っぽになった頭の中に、アイデアがすっと入り込んでくる。あれって不思議ですよね。
気持ち良い風が吹き抜けるテラスでコーヒーをいれる。リラックスしたムードをつくる大切な時間だ。
サーフィン談議に花を咲かせる坂口とHIRO。充実したオフの時間が、仕事にも良い影響を与えてくれる。
真摯に挑戦する姿勢が、
プロスペックスと呼応する
HIRO:仕事をする上では、なるべくカメラなど機材には頼らないようにしています。もちろん最低限度の性能は必要ですが、それよりも“自分のあり方”だと思う。カメラで撮るのではなく、自分が撮るんだっていう気持ちをもっています。自分にしかできないことは何なのか? それこそがチャレンジし続けたいという自分の価値観につながっているし、自分の経験が具現化されて、クリエイティブな面に生きてくる。
新しい出会いから受ける刺激も、自分自身を成長させてくれるもので、プロスペックスの真摯で嘘がない時計作りへの哲学を知ったことも大きな学びですし、そういう哲学のあるものを身につけることは自分のポリシーにも合います。
坂口:時計は時間を知るためのものですが、色や機構によって、その印象は全然違うものになる。例えば便利なGMTウオッチ「SBEJ009」も、グリーンのダイヤルを選ぶと腕元が華やかに見えるし、約60年も前の歴史的傑作からインスピレーションを受けた“1965 ヘリテージ”モデルは、歴史の重みを感じると同時に、進化し続けるプロスペックスの信念を感じることもできる。しかも誠実に作られたものだから安心して使うことができる。そして使い込むほどに味わいが増していき、それこそ自分の時間を刻んでくれる。
HIRO:「SBDC199」は日焼けした肌にも馴染む時計ですよね。SEIKO ブランドの100周年を記念したモデルならではの特別感のあるカラーリングでクラシックなムードもあるし、デザインも好みです。僕は手首が細いので、ダイバーズウオッチとしてはやや小ぶりな40㎜というケース径なら、全体的なバランスもいい。
坂口:ローカルのサーファーたちには、なんというか“塩臭い感じ”がある。体つきも自然が作ったものですし、髪の毛や肌の質感も含め、サーファー特有のかっこよい雰囲気がありますよね。プロスペックスはそれに通じる空気を感じます。
ーー表現者として活躍し、サーフィンを愛する二人は、今回のセッションを通じてお互いを刺激し合える関係となった。これから二人はどういう時間を刻んでいくのだろうか?
SEIKOブランドの100周年を記念にしたスペシャルエディションで、ファブリックストラップも付属。「ゴールドの使い方がキレイですね。カジュアルな時計ですが、この配色ならフォーマルに合わせてもいいかも(坂口)」。セイコー プロスペックス SEIKO ブランド 100周年記念 メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ スペシャルエディション「SBDC199」セイコーグローバルブランドコアショップ専用モデル。自動巻、SSケース、300m空気潜水用防水、ケース径40㎜、ケース厚13㎜。製品の詳細はこちら ≫