時間とは流れ去るものであり、決して戻ることができない。人の営みもまた同様で、次の世代へとバトンを渡しながら、歴史や文化を継承していく。時計は時間という目に見えない概念を可視化するために生まれ、ほぼ変わらぬ姿で現代へと受け継がれてきた。そんなロマンティックな意味をもつ時計は、世代を超えて受け継いでいく価値があるものだろう。では、自分の価値観で時間を紡ぐ「プロスペックスライフ」を送る坂口憲二は、何を継承し、そして何を伝えていくのだろうか?
迷ったときは、大変な道を選びたい
ーー日本プロレス界のカリスマである坂口征二を父に持つ坂口憲二は、幼少期を振り返る。
「子供の頃から注意されていたのは、挨拶ですね。そしてよく食べ、よく寝て、よく遊べ。父の影響もあって柔道を習っていたので、礼儀や時間厳守についてはしつけられました。俳優の仕事をするようになってからも、右も左もわからない新人のときから、とりあえず挨拶だけはちゃんとするというのは徹底しました。自分の子供たちにも、挨拶はきちんとしなさいとは教えていますが、それぐらいかな。でも早いうちに夢中になれるものを、見つけてほしい。僕はスポーツをやったり留学したりしましたが、一生やっていきたいものになかなか出会えなかった。今の時代は選択肢が多いので、いろいろなことにチャレンジして、自分に合ったものを見つける。そんな環境をつくってあげたいですね」
ーー情報過多な時代だからこそ、自分の価値観をしっかり持つことが大切となる。しかし人間とは悩み多き生き物でもある。坂口が大切にしている価値観とは何なのか?
「かっこつけた言い方ですが、何か迷ったときは、大変な道を選ぶってことですね。巡り巡って自分の経験や力になるだろうし、その方がかっこいいじゃないですか(笑)。人生は選択の連続ですが、だからこそ最後に何が起こるんだ? みたいな面白さもある。親父は寡黙で生き様を背中で語るタイプですが、いつだって進むべき道を示してくれた。だから自分も、そうありたいですね」
1969年に誕生し垂直クラッチを搭載した世界初の自動巻クロノグラフ「スピードタイマー」の進化系として、1972年にデビューした、白地に黒の“パンダダイヤル”モデルがイメージソース。計時に関する針のみオレンジにして視認性を高めた。搭載するムーブメントは自社製のキャリバー8R48。セイコー プロスペックス スピードタイマー メカニカルクロノグラフ 「SBEC021」。セイコーウオッチサロン専用モデル。自動巻、SSケース、日常生活用強化防水(10気圧)、ケース径42㎜、ケース厚14.6㎜。352,000円 製品の詳細はこちら ≫
自分にとって大切なものを、受け継いでいきたい
ーー父と息子の関係は、歳を重ねてもどこかムズ痒さがあるものだ。しかしその隙間を思い出深い品々が埋めてくれることもある。
「親父が使っていた柔道の黒帯を譲ってもらいました。親父はものに執着しない人なので、『いらないからあげるよ』くらいの感覚かもしれませんが、色が褪せていたり、ちょっとほつれていたりと、使い込んだ雰囲気があって、心に響くものがある。僕も一応自分の黒帯を持っていますが、残念ながらかなり綺麗なので、息子に譲るなんてできませんね(笑)。僕から息子へ継承するなら、サーフィンのロングボードかな。自分でデザインして、サイズとか色とかも全部決めて、壊れたら自分で直して、汚れたらワックスがけでピッカピカにして、愛情をこめて使っています。ロングボードは、60年代の板も残されているくらい長く使えるものなので、そういうものを受け継いでいけたらいいな」
ーー坂口が継承していきたいもの。それは自分が好きなもので、大事にしているもの。そして劣化しないもの。そういう点ではメンテナンスをすることで長く使っていける、クロノグラフもいいだろう。
「時計は身に着けているもので、体の一部でもある。当然大事にしているものだし、その時計が刻んできた時間そのものが、大切な思い出でもある。子供ともその時間を共有しているわけだから、受け継いでいく価値がある。もちろん普遍的なデザインであるというのも大切です。僕自身もコーヒーやグッズを作っているので理解できるようになりましたが、長く使われていくものには、デザイナーや開発者の気持ちがこもっている。そういう思いも含めて継承したい」
千葉の焙煎所へは自動車で。運転している時間もいい気分転換になる。「親父は運転をしない人で、会社の人が大きなキャデラックを運転していました。逆におふくろがドライブ好きで、赤いBMWで湘南に行きましたね。いまもある『珊瑚礁』というカレー屋さんが大好きだったなぁ」
1960~70年代に製造されていた傑作「スピードタイマー」のデザインを継承し、トレンドから今や定番のカラーになりつつあるグリーンをダイヤルに取り入れたクロノグラフ。「ソーラー駆動なので、電池交換不要で時刻を刻んでくれるのもメリットですね」と坂口。セイコー プロスペックス スピードタイマー ソーラークロノグラフ 「SBDL107」。クオーツ(ソーラー)、SSケース、日常生活用強化防水(10気圧)、ケース径39㎜、ケース厚13.3㎜。99,000円 製品の詳細はこちら ≫
必ず自分の番はくるから、準備だけは怠らない
「今年はセイコーが腕時計を作り始めてから110周年、そして来年はSEIKOブランドが誕生してから100年になるそうですね。それだけ長く時計を作っていて、その文化が今でも継承され、そしてみんなから愛されている。それはすごいことですよね。映画や音楽にもそういう色褪せないものがありますが、自分もコーヒーの仕事をするようになってから、後世に残るものを作りたいと考えるようになりました」
ーーそのためにもう一度心を引き締めたいという思いもあったのだろうか?坂口は今年の夏、4年ぶりにアメリカのポートランドを訪れた。
「ポートランドは、コーヒービジネスを立ち上げようと思ったきっかけの場所ですし、すごく刺激をもらいましたね。なくなったお店もありますが、新しいお店も増えていて、さらに前向きに頑張らなきゃという気持ちになれました」
ーー自然体という言葉はずいぶん使い古されているが、やっぱり坂口憲二は自然体の男であり、時代に抗わず、しかし自分が面白そうだ、かっこいいぞと思った道を進む。長らく休止していた俳優業にも少しずつ復帰しはじめたが、そこにも気負いはない。
「ガツガツしないっていうのが一番ですね。必ず自分の番はくるから、準備だけは怠らない。そこはサーフィンと一緒ですね。全部の波に乗ろうとしても、それは絶対に無理。まずは海に入る前に岸から波を見て、状況や人数なども把握し、そして自分の波が来たらきっちりメイクする。そういう考え方ができるようになったかな」
ーー前世代の考え方を、そのまま次世代に受け渡すのではなく、自分の価値観というフィルターを通じてどう生きるべきかを考え、そして実践する。人生という時間を有意義にするのは、自分の考え方ひとつなのだ。
視認性が高く、存在感がある“パンダダイヤル”と呼ばれる白と黒の人気配色を取り入れたソーラー駆動のクロノグラフ。モノトーンの中で、赤い針が差し色で効いている。セイコー プロスペックス スピードタイマー ソーラークロノグラフ 「SBDL095」。クオーツ(ソーラー)、SSケース、日常生活用強化防水(10気圧)、ケース径41.4㎜、ケース厚13㎜。103,400円 製品の詳細はこちら ≫
坂口 憲二(さかぐち・けんじ)
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1975年東京都出身。モデル、俳優を経て、現在はコーヒーの焙煎士として活動。2018年にコーヒーブランド「The Rising Sun Coffee」を立ち上げ、コーヒー店を千葉、東京、神奈川、およびECサイトで展開中。さらにグッズやアパレルの開発にも力を入れている。そして再び雑誌やCM、ドラマなど、活動の幅を広げつつある。