時計専門誌「HODINKEE Japan」編集長/関口 優
独自のスタイルを貫くさまざまな方に、キングセイコーの魅力をお聞きするインタビュー企画の第2回目は、時計愛好家であり、時計専門誌の編集長を務める関口優さん。数多くの腕時計を見てきた専門家ならではの視点と、現代における腕時計を取り巻くライフスタイルの変化、そしてキングセイコーのブランドフィロソフィーとご自身の共通点について語っていただきました。いつまでも変わらないスタイルと、時代に合わせて変化していくことの大切さとは?
2006年の新卒以来、一貫して雑誌編集としてキャリアを積み、2013年より時計業界での取材活動をスタート。その後、主に日本における時計リテーラーとのネットワークが評価され当時最年少で時計専門誌WATCHNAVIの編集長に就任。2019年には世界的な時計メディアであるHODINKEEの日本ローンチに伴い、創刊編集長として現職へ転職。現在に至る。
キングセイコーは約半世紀前に誕生したブランドですよね。当時、手に取りやすい国産高級腕時計としての地位を築きましたが、2022年に復活を果たし、近年再び注目されています。国産腕時計の愛好家にとっては当時と同じく親しみやすい存在であり、多くの愛好家に歓迎されているブランドだと感じます。
復活のタイミングも非常に良かったと思います。基本的にはブレスレットモデルがラインアップされており、レザーストラップへの交換も簡単。これに似た特徴を持つモデルが流行している今、キングセイコーは絶好のタイミングで復活したと感じます。
最初に復活されたモデルは名機と呼ばれる“KSK”のデザインで、ケース径や太いラグ、ライターカットのインデックスなど、ディテールへのこだわりが魅力です。1960年代当時のスイス製腕時計はシンプルなデザインが主流でしたが、キングセイコーは太いインデックスや時分針と細い秒針のメリハリが特徴的でした。また、ケースデザインもより大胆で視覚的なインパクトが強かったと思います。
近年、グランドセイコーがアメリカで成功を収めたことからも、成功する可能性は高いと考えています。日本人らしいものづくりの賜物というか、作り込みに対するプライスもフェアで、スイス製の同価格帯のブランドと並ぶ存在になるのではないでしょうか。
僕は 「SDKS003」を所有していますが、ダイヤルの縦筋目の仕上げや、針とのコントラストが効いていて、とても視認性に優れていますね。特にライターカットと呼ばれる12時位置のインデックスは、オリジナルのデザインを徹底して再現して仕上げにも深いこだわりが見られます。海外ブランドでも、インデックスにここまで手をかけるところはなかなかないのではないでしょうか。さらにKSKの6LモデルはAUTOMATICのフォントがキングセイコーロゴに合わせて細かく調整されており、なかなか手が入りにくい細部までこだわり抜かれているところが、このブランドならではの魅力だと言えます。
ムーブメントに関しては、ケースのプロポーションに合わせて、小径のものや薄型のものなど、絶妙なサイズを選択しているところがポイントです。セイコーの技術が成熟しているおかげで、サイジングと精度が非常に優れていると思います。特に6Lムーブメントは、薄くて精度の高い腕時計を実現するために欠かせない要素です。
キングセイコーは、20万から40万くらいの価格帯で考えると、細部に至るまでとても手が込められた腕時計だと感じます。
現代においてドレスウオッチは昔のようにスーツやジャケットに限らず、カジュアルな服装にも合わせるものとして広がりつつあると思います。腕時計をつけることは、個人のスタイルやアイデンティティを表現する手段の一つ。特に男性にとっては、数少ない自分を表現するアイテムの一つであり、キングセイコーをつけることで「この人はちゃんとしている」と相手に安心感のようなものを与えられる気もしています。
レザーストラップの腕時計をカジュアルな服装に合わせる人も増えていますし、そういった「外し」の感覚が一般的になっています。今では若い人たちも、自分のスタイルに合わせてドレスウオッチを取り入れることが普通になっていると感じますね。
1960年代の東京で生まれたキングセイコーは、独自の感性とマーケティングに基づいて開発された商品であり、デザインのバランスが良く、クラシックなルーツを持ちながらも、現代にアジャストしたアップデートをしている点が大きな魅力です。キングセイコーは東京に生きる人々の感性に合うよう、昔も今も実用性と高級感を両立させていて、過度に高級で手の届きにくいものでもなく、バランスが非常に優れていると思いますね。
若い世代の方々にとっても、自分の趣味やスタイルに合った腕時計を選ぶことは、重要な選択ですし、キングセイコーは幅広く、そうした感性を持つ方々にも響くブランドだと感じます。復活間もなく37mmのラインアップを充実させるなど、手首が細い日本人にとって非常に使いやすく、古びることなく何年経っても同じように使えるデザインではないでしょうか。
「新作として登場した、樽のような優美なケースのモデルも、非常に大胆なデザインで気に入っています。元となるこの画像のモデルは1969年に生まれていますが、今見ても古くない斬新さを持っていると思います」(関口)
「キングセイコーはブレスレットのつくりが非常に精巧にできています。多列ブレスレットはまるでアクセサリーのように輝きますし、装着感もとてもいい。まさに新時代の腕時計に求められる要素をしっかり満たしているので、広く受け入れられていくのではないでしょうか」(関口)
僕は腕時計を着用するにあたり、昔からファッションとの親和性を大事にしています。特に男性はアクセサリー類が少ないですし、個性を表現する数少ないアイテムですよね。ファッションは、一時はイタリアンスーツにはまって、よく着ていましたね。最近は日本の若いブランドにも注目していて、素材にこだわる部分が非常に魅力的だと感じています。
そしてキングセイコーのようにヴィンテージの雰囲気を感じられる腕時計を身に着けるときは、主張しすぎないシンプルな格好を心がけています。要素がごちゃごちゃすると、腕時計の古き良き感じが薄くなってしまう気がして…。
最も気にするファッションのポイントはフォルムですね。例えば今日は、少しオーバーサイズのジャケットやパンツも太めのものを選んでいます。そこで、ちょっと小さめのサイズの腕時計があると、バランス感が良いのではないかなと思います。そういったコントラストを大事に考えています。
キングセイコーはデザインのバリエーションも豊富で、多様な現代のライフスタイルに合わせやすいところもポイントです。また、東京の「粋」を取り入れた背景がデザインにあるわけで、シンプルだけどわびさびがあるというか、日本人ならぜひファッションに取り入れたい要素があると思います。
キングセイコーでお気に入りの一本が、この「SDKA007」。「KSKのデザインは現代でも通じるスタイリッシュさとオリジナリティを備えています。飽きのこない、いつの時代でも身に着けられる魅力を持った腕時計ですね」(関口)
もうひとつのお気に入りは、優美なケースデザインの「SDKA021」。「絶妙なカラーのグリーンのダイヤルは、グラデーションがかかっていて、まさに“粋”を感じさせてくれる。存在感あるヴィンテージ調のモデルだと思います」(関口)
重厚感のあるレザーストラップが多種用意されているのも、キングセイコーならでは。「ヴィンテージ感をより演出することができますし、ファッションに合わせて手軽にチェンジできるところがうれしいです」(関口)
キングセイコーのように、僕が編集者として貫き続けていることは、「新陳代謝と傾聴」です。キャリアの振り出しでは月刊誌や隔週刊誌を担当したこともあり、よりトレンド性を意識したコンテンツ作りをしていました。
それは写真や文章においてもそうで、同じスタッフとばかり仕事をしているとどうしてもマンネリ化してしまう。最大の問題は「チャレンジをしなくなること」で、トレンド感のある情報を扱っているのに、見え方、紹介の仕方が置き去りになってしまう。
ですから常に、新たに仕事をしてみたい方にアプローチして、自分や自社にない考え方をお聞きしてアウトプットに繋げるということを、今でも貫いています。
変わらないスタイルと、時代に合わせて変化するべきエッセンスのバランス。そこが僕とキングセイコーの共通点かもしれないですね。
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