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Environment 森林資材の循環Environment 森林資材の循環

セイコーでは、お買い上げ時に商品を入れる箱に使用する紙を、環境に配慮した「FSC ® 認証紙」に順次変更しています。

FSC認証紙を利用することで、環境にどのような影響を及ぼすのでしょうか。ここでは、FSC認証紙とその原料となる紙や森林資源について考察してみたいと思います。

FSC®認証
FSC®認証
FSC®認証

FSC認証とは

FSC認証とは、FSC(Forest Stewardship Council®:森林管理協議会)が定める国際的な認証制度で、適切に管理された森林から生産された木材や再生資源などを使用した製品を、目に見える形で消費者に届ける仕組みです。

製品にFSC認証マークを付けるには、原材料から最終製品となり消費者に届くまで、生産・加工・流通に関わるすべての組織で認証を受けなければなりません。
認証マークの付いた製品は、森林の多様性、地域社会や先住民族、労働者の権利などが適切に守られた森林から生産された木材や、その他適切な森林資源の使用につながる原材料を使用していると認められた商品です。消費者はFSC認証マークを目印とすることで、森林環境の保護のみならず、地域社会や人々の権利などが守られ、適切に生産された製品の選択が可能となります。

森林資源の循環と生物多様性

紙の原材料は、おもに森林資源である木材です。
森林は、木材のような自然資源としてだけではなく、空気や水、多種多様な生物の住処としてなど、生態系にとって欠かせない存在です。そのため、紙のことを考える上でも森林資源の問題は避けられない課題でもあり、生物多様性を抜きにしては語れません。

生物多様性とは?

生物多様性とは、複雑な生態系を支える生物とそのネットワークを指す言葉で、簡単に言うと、生き物はひとつの個体や種だけでは生きられないということです。

私たち人間もきれいな水や空気、食料など、生物多様性が支える生態系の恩恵を受けています。森林は陸上の多様な生物をはぐくんでいて、森林資源を適切に管理することが重要な課題となっています。

循環型資源と環境問題

紙は循環型資源であり、日本では2021年の古紙利用率は67.0%、古紙回収率は79.4%と、世界でもトップクラスの実績です。一般的に、循環型の資源を使っていれば環境にも優しいと思われがちですが、それだけでは十分ではない、という側面があります。

森林資源の問題と生物多様性について考えるにあたり、森林科学のスペシャリストである『FSC® Japan』指針・規格マネージャーの三柴ちさとさんにお話をお伺いしました。

三柴ちさとさん

「紙の原材料となる木は確かに伐っても植えればまた育ちます。しかし『植林したから循環資源であり、環境によい』かというと必ずしもそうではありません。
熱帯雨林や原生林などの豊かな生態系をもつ森を切って、一面同じような早生樹を植えても、元の森がもつ豊かな生態系は戻ってはきません。ではリサイクルはどうなのか?古紙などのリサイクルにより、確かに森林への伐採圧を下げ、森林保全に貢献することはできます。しかし、リサイクルには限度があります。リサイクルを重ねれば繊維は傷つき、短くなり、良質な紙は作れません。同じ素材を永遠にリサイクルし続けることはできないのです。そうすると、やはりどうしても森林からの資源採取は必要になります。問題は、それをどうするかです。(三柴さん)」

たしかに、紙の生産のために豊かな生物多様性を持つ原生林を無計画に伐採していれば、環境破壊につながるとも考えられます。
森林破壊によって生産された木材は一般的に安く流通していることが多く、それらは特に問題として意識されることなく使われています。そして、どの森林から生産された木材なのかは、製品の利用者にはわかりません。
どういった状況下にある森林から伐採された木材であるかまで知らなければ、環境によいかどうか判断することはできませんが、消費者がそれを知ることは難しいと言えるでしょう。

環境破壊から守る森林認証の取り組み

このような森林破壊の悪循環から森を守る仕組みとして作られたのが、森林認証制度なのです。

「森林認証は、世界的な森林破壊を食い止めるため民間レベルの市場で森林を守るシステムを作ろう、と考えて設立された制度です。
『責任ある森林管理とはどういったものか』という基準を作って、それに則って管理されている森林を認証する。そこから適切な形で収穫された木材を使用した製品である、と消費者に見える形で提供しようというのが、森林認証制度のポイントです。
製品にFSC認証マークを付けるには、原材料から最終製品となり消費者に届くまで、生産加工流通に関わるすべてのプロセスが組織で認証でカバーされていなければなりません。(三柴さん)」

つまり、全ての工程で厳しい基準をクリアした証であるFSC認証のロゴがついた製品を選ぶことで、消費者自らが森林資源の保全に貢献できるしくみであるというわけです。

FSC森林認証の仕組みFSC森林認証の仕組み
世界各地で抱える森林破壊の問題点は異なる

1990年代より、世界各地で深刻な森林問題が取り沙汰されてきましたが、それぞれの地域で抱える問題は大きく異なっています。

たとえば、東南アジアでは熱帯雨林を伐採してアブラヤシのプランテーション等の農園にすることが、大規模に行われています。アマゾンでは農地と鉱物資源の採掘、アフリカでは商業利用と生活で使用する薪としての木材採取など、森林破壊の要因はさまざまですが、世界での多くの森林破壊は過度の伐採が原因で問題が起きています

一方、日本の森林問題は世界的に見てもかなり特殊なようです。
日本の森林は約4割が針葉樹の人工林であり、収穫適齢期を迎えた林地の放置が問題になっています。
それならば「伐採すれば解決するのでは」と思うのですが、問題はそれほど単純ではないようです。

「日本では急峻な地形にある森林が多いため、適切な管理や伐採をするには多額のコストがかかります。同じ年齢の木が一斉に育つ人工林では、ある程度大きくなると間伐(木の間引き)が必要になります。間伐されないと、木は密生して成長するスペースがなくやせ細ってひょろひょろに育ち、森の中まで日が十分に当たらないようになります。すると、下層植生(地面に生える背の低い植物)が育たず、土がむき出しになってしまうので、土は流出しやすく、水をためる森の機能が十分に働かないといった問題も起こります。(三柴さん)」

大規模な伐採が問題になるだけではなく、手を付けないことでも森林破壊が起こるのは意外でした。

三柴ちさとさん
地域における自然を守るのが大切

森林破壊をおさえて生物多様性を守るには、手段を誤るとむしろ保全が進まない可能性も考えられます。
たとえば 通常、森林火災は森林を破壊するものとして警戒されますが、森で自然火災が頻繁に発生するような地域では、火に強い種が進化し、独自の生態系を築いているようなところもあります。
火災は森を破壊するとして火災を抑えてしまうと、火と共に進化してきた固有種などに不利な環境を作ってしまい、従来の生態系を変えてしまう可能性もあります。
焼き畑農業も森林破壊の原因とされていますが、長い歴史の中で見れば先住民族が何千年にも渡って続けて来た営みであり、必ずしも森林破壊につながるものではありませんでした。
人口増加によって生産サイクルが速くなり、規模も大きくなったことで問題となっているということです。

適切な森林管理の方法は、地域性や自然の生態系によるところが大きいものです。森自体には再生力があるため、生態系の基盤が損なわれなければ再生します。
とはいえ、破壊が進み過ぎ、再生に時間がかかる場合には、人間がその環境にあった方法で手助けをしてあげる。画一的な手段で森林保護に取り組むのではなく、自然と向き合い対話することが、森林や生物多様性の保護には最重要課題だといえるでしょう。

「木材資源は再生可能資源ではありますが、すべての木材が持続可能な方法で生産されているわけではありません。森林管理についての環境的、社会的リスクを認識し、責任ある方法で生産された木材やその製品を選ぶことで、森林の持続可能性につながるのです。

森林問題について考え、世界中のステークホルダーの合意を得て作ったシステムがFSC認証です。
『FSC』というロゴを知っていただいて、ロゴのついた製品を積極的に選んでいただければうれしく思います(三柴さん)」

三柴ちさとさん

森林資源の循環と保全に対する
セイコーの取り組み

森林資源の循環と保全は、地球規模で考えなければならない大きな課題のひとつであるのがよく理解できました。セイコーでも、世界各地の森林資源循環と保全に対する取り組みを実施しています。

わくわくの森

盛岡セイコー工業は10万平方メートル超の広大な敷地を持ち、約37%が緑地という自然豊かな工場です。 しかし、以前は生物多様性の観点から見れば、まったく管理できていない状態だったとのことです。生物多様性国際会議COP10をきっかけに2011年より活動を開始 。専門家によって、この森は貴重な自然林で近隣の生態系にとって要石の役割を果たしている という評価をいただき、活動を更に加速しました。

「わくわくの森」と名付けられた敷地内の森には大小約800本の樹木が生い茂り、間伐や植樹によって森の更新も進められています 。苗木として植樹されたのは、森で自然発芽したコナラやミズナラを育てたものです。また、敷地内には15個の巣箱を設置、昆虫を呼び寄せるインセクトホテルも4か所に設置され、冬越しや繁殖に利用されている形跡が数多く観察されています。2008年から近隣住民や県内企業、行政の方向けに「地域とはじめる環境報告会」を開催。2021年からは子ども向けに「セイコーわくわく環境教室」といったワークショップを実施、生物多様性の重要性を発信しています。

わくわくの森
わくわくトープ

2022年には「わくわくトープ」と名付けられたビオトープが作られました。わくわくトープにはシラカバやヤマボウシ、ナナカマド などの地域に自生する樹木を植栽。湿地帯や水域には近隣の湿地にも自生する植物の他に絶滅危惧種も植栽し保護するなど、地域の生物多様性も高める取り組みがなされています。

わくわくトープ
森林保全活動

2021年、岩手県とセイコーウオッチ・盛岡セイコー工業は、地方創生および持続可能な地域社会の実現に向けた活動を協働で推進することを目的とした、包括連携協定を締結しました。その一環として、久慈市にある平庭高原の白樺林の保護活動に取り組んでいます。
平庭高原には、約31万本の白樺が群生しています。多くの樹木が樹齢である80年を迎える一方、密生し過ぎたことで自生が進まず、森林保護活動が急務となっていました。
セイコーは、地域住民と共に社員やその家族が定期的に植樹や整備を続け、地域貢献活動に参加しています。

森林保全活動
世界各国における森林保全への取り組み

世界各国のセイコーの現地法人でも、各地で森林保全に取り組んでいます。

タイでは、他に類を見ない生物多様性を持つことから「タイ最大で最後の原生地域」とも呼ばれている、トゥンヤイ・ファイカケン野生生物保護区群の森を守る活動に参加しています。Seub Nakhasathien基金と提携して「Save the Forest」と銘打ったプロジェクトを立ち上げ、限定ウオッチを販売、売上金の一部を寄付して森林保護活動を支援しています。資金は、国立公園のレンジャーの新しい制服や装備、野生動物が生息する森林地帯の防火壁の設置などに使われています。

世界各国における森林保全への取り組み

オーストラリアでは、大規模な山火事や洪水が住民や生物に大きな影響を与えています。
セイコーでは、オーストラリアの野生動植物保護支援のため、Pink Flannel Flowerをデザインモチーフとした限定高級ウオッチをオークションに出品いたしました。

Pink Flannel Flowerとはオーストラリア原産の花で、森林火災後の雨のあとに開花する、逆境に打ち勝つ生命力の象徴でもあり、特別な意味を持ちます。趣旨に賛同した多くの方がオークションに参加され、通常価格の約2倍という想定以上の高額で落札され、セイコーはその全額をFoundation for National Parks&Wildlife(オーストラリアの国立公園のパートナーであり自然保護活動を行う慈善団体)に寄付いたしました。

世界各国における森林保全への取り組み

脱炭素・循環型社会の
実現に向けての貢献

FSC認証紙を使用するにあたり、紙の原料を提供する森林のことをあらためて考えてみました。
新しいセイコーの箱にFSC 認証紙を使用したのも、脱炭素・循環型社会の実現に向けた取り組みの一つです。私たちの取り組みはまだまだ小さく地球環境に大きな貢献ができているわけではありませんが、これらを通じて多くの人に森林保護や環境保全に思いを巡らせていただければ幸いです。

最後に三柴さんからは、次のようなコメントをいただきました。

「日常生活の中で森林を感じるのは難しいですが、森がないと私たちの生活は成り立たないものです。森林の再生や保全を身近に感じられるプロジェクトにセイコーが参画するのは、たいへん意味のあることだと思います。私の子どももなかなか森に連れていく機会はないので、今後そういった活動を見つけてぜひ連れ出したいですね」

三柴ちさとさん

三柴ちさと(みしば ちさと)さん

FSC® Japan 指針・規格マネージャー
森林科学修士(米国イェール大学林学・環境学大学院)、農学博士(東京大学大学院生命科学研究科、森林科学専攻)

大学院で熱帯林生態学を学び、森林保全の道を志す。修士卒業後、インドネシアに単身赴き、エコツーリズムのコンサルタントを経、国際環境NGOレインフォレスト・アライアンスのアジア太平洋地域事務所にて森林認証に携わる。審査員としてアジア太平洋地域の12か国で審査を経験。2014年からFSCジャパンに勤務。FM(森林管理)認証で使われる日本国内規格の策定や管理木材国内リスクアセスメントを主導。

環境負荷の低減、生物多様性保全などの環境活動 そのほかのアクション

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